【嘘・ごまかし】「やっていません」と嘘をつく子の背景をどう読むか ――「ずるさ」の裏にある脆さと防衛を理解する

「友達の筆箱を隠したのを見た子が何人もいるのに、本人は頑なに『やってない』と言い張る……」
「宿題を忘れた理由を聞くと、毎回『お母さんがカバンに入れ忘れた』と誰かのせいにする……」
子どもたちが見せる、あまりにも見え透いた嘘や、責任転嫁のごまかし。
これらに直面したとき、若手の先生ほど「どうしてこんなにずるいんだろう」「正直に謝ればいいだけなのに」と、モヤモヤしたり、裏切られたような気持ちになったりするのではないでしょうか。
クラスの規律を正そうとする正義感から、「嘘をつくのはだめだ。本当のことを言いなさい」と厳しく追及してしまい、結果として子どもがますます頑なになり、対話が完全に止まってしまう――。
現場ではよく見られる光景です。
しかし、発達心理学や臨床心理学の視点から、子どもが嘘をつく瞬間の心の動きを見ていくと、そこには大人が感じる「悪意」だけでは片づけられない面があります。
子どもは、嘘がよくないことを理解していても、自分の失敗や違反を隠すために嘘をつくことがあります(Talwar et al., 2002)。
その背景には、叱責への恐怖、自己評価の傷つきやすさ、失敗を認めたときに自分全体が否定されるような感覚、そして「正直に言ったときに何が起きるか」という過去の学習経験が関わっていることがあります(Festinger, 1957; Stuewig & McCloskey, 2005; Engarhos et al., 2020)。
今回は、子どもが嘘やごまかしに逃げてしまう心理的メカニズムを踏まえながら、嘘を暴く「尋問」から離れ、子どもの脆さに寄り添いつつ誠実さを育てるための「伴走型アプローチ」を整理していきます。
1.嘘への第一対応は、「白状させる」ことではなく、「事実を整理し、正直に言える安全をつくる」こと
子どもが嘘やごまかしを繰り返すとき、教師が取るべきスタンスは、嘘をついたこと自体を激しく裁くことではありません。
必要なのは、「説明と事実の食い違い」は感情を交えずに整理しつつ、その子がなぜそこまで防衛しなければならないのかを見立て、正直に話しても人格まで否定されないという安心感を渡すことです。
子どもが嘘をつくとき、そこには「逃げたい」「責任を負いたくない」という気持ちは確かにあります。
ですが、それだけでなく、「ここで認めたら自分は終わる」「怒られるだけで済まない」という強い恐怖が混ざっていることがあります。
だからこそ、ここで教師が「嘘をつくな」と力でねじ伏せようとすると、子どもはさらに嘘を重ねるか、あるいは黙り込んで関係そのものを切ってしまいます。
大切なのは、嘘を正当化することではありません。
嘘という表面の行動にだけ反応するのではなく、
- いま何を隠そうとしているのか
- 何を恐れているのか
- 正直に言ったあと、どう回復できるのか
をセットで扱うことです。
つまり、嘘を「罪」として裁く前に「防衛」として読み解くのです。
教師が「嘘を暴く人」から「失敗のリカバリーを助ける人」へと立ち位置を変えられるとき、子どもは少しずつ「ごまかす」より「言って立て直す」方を学びやすくなります。
2.なぜあの子は嘘を重ねるのか ――自己防衛・認知的不協和・学習経験から考える
子どもたちが、ばれてしまいそうな嘘やごまかしをあえて口にするとき、その背景には少なくとも三つの心理的な要因が考えられます。
① 「悪いことをした自分」を受け止めきれず、防衛が先に立つ
子どもは、嘘が何かをかなり早い段階から理解しています。
ところが、その理解と、実際に嘘をつかないことは一致しません。
ある研究では、多くの子どもが「嘘とは何か」「本当のことを言うべきだ」という概念を理解していても、自分の違反行動を隠すためには嘘をつくことが示されています(Talwar et al., 2002)。
つまり、嘘は「知らないからつく」のではなく、わかっていても防衛が勝つことがあるのです。
特に、失敗や非を認めることが「自分はだめな人間だ」という全否定に直結しやすい子どもでは、この防衛が強く出やすくなります。
② 「自分は悪い子ではない」という自己像と、実際の失敗がぶつかる
フェスティンガーの認知的不協和理論では、人は「自分についての信念」と「実際の行動」が食い違うと、不快感を覚えると考えます(Festinger, 1957)。
たとえば、
- 「自分はちゃんとした子だ」
- 「自分は悪いことをしていないはずだ」
という自己像を持っている子が、実際には宿題をやっていない、友達に乱暴をした、物を隠した、という事実に直面すると、心の中で強い不協和が起きます。
この不快感に耐えられれば、「やってしまった」と認めて修正に向かえます。
ですが、それが難しいときには、「やっていない」「相手が先だった」「自分のせいではない」と、事実の側を歪めてでも心のバランスを保とうとすることがあります。
見え透いた嘘であっても、本人の中では「だまそうとしている」というより、「今この場を生き延びるために、そう言うしかない」に近い場合があります。
③ 正直に言ったときの“結果”を、子どもは学習している
子どもの正直さは、道徳心だけで決まるわけではありません。
「本当のことを言ったら、どう扱われるか」という経験にも強く左右されます。
観察学習の研究では、子どもは他者が正直に話したときや嘘をついたとき、その結果を見て、自分のふるまいを変えることが示されています。
たとえば、同年代の子が違反を正直に認め、そのあとに肯定的な反応や賞賛を受けるのを見た子どもは、自分もより正直になりやすくなります(Heyman et al., 2018)。
また、正直に話してよい結果になる場面、あるいは嘘をついて不利益を受ける場面を見た子どもは、その後、自分の違反を隠すための嘘をつきにくくなりました(Engarhos et al., 2020)。
逆に言えば、正直に言っても長く責められる、人格まで否定される、恥をかかされる、という経験が重なると、子どもにとって嘘は「悪いこと」であると同時に、「身を守る手段」にもなりえます。
「恥」と「罪悪感」は似ているようで違う
このテーマでは、「恥」と「罪悪感」を分けて考えることも重要です。
研究では、拒絶的・機能不全な関係の中では、子どもはより強い「恥」に傾きやすく、逆に支持的な関係は、行為に焦点を当てたより適応的な「罪悪感」を支えやすいことが示されています(Stuewig & McCloskey, 2005; van Eickels et al., 2025)。
大雑把に言えば、
- 「恥」は「自分はだめだ」という自己全体への打撃
- 「罪悪感」は「やったことがまずかった」という行為への反省
です。
教師が子どもを追い詰めすぎると、「悪いことをした」という気づきより先に、「自分は終わった」という恥が前面に出ます。
そうなると、正直に話すより、防衛や否認が強まりやすくなります。
3.見え透いた嘘に直面したときの、指導と伴走のハイブリッド対応
では、実際の教室で子どもが見え透いた嘘をついたとき、教師はどのように「指導」と「伴走」をブレンドして動けばよいのでしょうか。
具体的な実践ステップを見てみましょう。
シチュエーション
休み時間、廊下を走って同学年の子とぶつかり、相手にけがをさせてしまったF君。複数の目撃者がいるにもかかわらず、教師が聞くと「俺は走ってない! あいつが勝手にぶつかってきたんだ!」と怒鳴ってごまかそうとする場合。
ここでやってしまいがちなNG対応は、「みんなが見てたんだぞ! 嘘をつくな!」と証拠を突きつけて白状させようとすることです。
これはF君を追い詰め、さらに防衛を強くしやすい対応です。
必要なのは、次のような「事実の整理」と「正直に言える安全づくり」です。
ステップ1:【指導】嘘を裁くのではなく、動かせない事実だけを確認する
F君の「走っていない」という主張に対して、すぐに「嘘つき」とラベルを貼らないことが大切です。
感情を抑えて、今確定している事実だけを確認します。
教師:
「Fくん、今は“走ったかどうか”で言い合いを続けるより、まず事実を整理します」
「相手の子が転んで、けがをしたこと」
「その場にFくんがいたこと」
「まずはこの二つを確認します」
ここでのポイントは、「嘘を認めさせること」ではなく、「事実と対応の筋道をつくること」です。
議論の焦点を「お前は嘘つきか」から、「何が起きて、これからどうするか」へ移します。
ステップ2:【伴走】正直に話しても、人格までは否定しないと伝える
次に、周囲の目から離れた場所で、F君の防衛を下げる関わりをします。
ここで重要なのは、「怒らないから言って」と安易に約束することではありません。
学校では指導や責任確認が必要な場面もあるからです。
そうではなく、「怒鳴らない」「追い込まない」「本当のことを言った方が一緒に整理できる」と伝えることです。
教師:
「急にこうなって、かなり焦ったよね」
「今、責め立てるために聞いているんじゃない」
「本当のことがわかった方が、相手の子への対応も、Fくんのことも一緒に整理できる」
「うまく話せなくてもいいから、何があったか順番に教えて」
ここでは、事実確認と同時に、関係を切らないメッセージを渡します。
「正直に言ったら終わり」ではなく、「正直に言ったら、そこから立て直せる」と感じられるかどうかが重要です。
ステップ3:【伴走主導の協働】“白状”を求めるのでなく、“リカバリー”へ進める
F君が「……本当は急いでいて、走っちゃいました」と言えたなら、そこは叱責を追加する場面ではなく、誠実さを次の行動につなぐ場面です。
教師:
「言いにくかったと思うけど、今話せたのは大事だよ」
「じゃあ次は、相手の子にどう伝えるかを一緒に考えよう」
「謝ること、保健室の確認、必要なら先生も一緒に行く」
ここで承認するべきなのは、「やらかしても大丈夫」という意味ではなく、正直に戻ってきたことです。
さらに、「正直に言う」で終わらせず、
- 相手への謝罪
- けがの確認
- 今後どうするか
- 必要な再発防止
まで一緒に整理することで、誠実さを行動化していきます。
⚠️子どもの「多様性」に応じた見極めのポイント
嘘やごまかしの背景は一つではありません。だからこそ、同じ対応を全員に当てはめないことが重要です。
1.完璧主義や失敗不耐性が強い子の場合
負けず嫌いが強い子、失敗を極端に嫌う子、間違えることそのものに強い苦痛を感じる子では、「非を認める」ことが過剰なパニックを引き起こすことがあります。ASD傾向のある子の一部でも、認知の硬さや見通しの崩れにより、自分の誤りを受け止めるまでに時間がかかることがあります。
この場合は、「なぜすぐ認めないのか」を責めるより、日頃から
「間違えること」と「価値がないこと」は別だ
というメッセージを積み上げる必要があります。
教室の中で、ミスを見つけたときの言葉かけが、のちの誠実さに直結します。
2.厳しすぎる環境の中で、“ごまかし”が生存戦略になっている子の場合
家庭やこれまでの学校経験の中で、失敗を認めることが強い叱責、屈辱、拒絶と結びついてきた子どもでは、嘘は単なる癖ではなく、「そうしないと生き延びられない」反応になっていることがあります。
このタイプの子に、1回の指導で「今日から正直にしなさい」は通りません。
必要なのは、数か月単位で一貫して、
「失敗しても、ここでは話せる」
「話したあとに、立て直せる」
という経験を積ませることです。
3.慢性的な嘘が続く場合は、個人指導だけで抱えない
嘘やごまかしが頻繁で、学級経営や対人関係に継続的な影響を及ぼしている場合は、担任ひとりの“話し方”の工夫だけでどうにかしようとしないことです。
- 学年での情報共有
- 養護教諭や教育相談担当との連携
- 保護者との事実ベースの共有
- 背景要因の見立て
が必要です。
問題を「性格」だけに帰すと、対応が細ります。
4.嘘を暴いて屈服させるのではなく、本当のことを言って立て直せる教室をつくる
子どもが見え透いた嘘をついたとき、それを「教師への挑戦」や「人間性の問題」とだけ捉えてしまうと、教師側には「白状させなければならない」という発想が生まれやすくなります。
しかし、子どもの嘘はしばしば、未熟な道徳性だけでなく、傷つきやすい自己、防衛、不安、そして過去の学習経験とも結びついています(Talwar et al., 2002; Festinger, 1957; Heyman et al., 2018; Engarhos et al., 2020)。
だからこそ、優れた伴走者としての教師は、子どもの嘘を暴いて「負けを認めさせる人」ではありません。
むしろ、
「本当のことを言っても、ここで人格まで潰されるわけではない」
「間違えたら、そこから一緒に直せばいい」
という経験を積ませる人です。
正直者が損をする教室では、子どもはますますごまかしを覚えます。
反対に、正直に戻ってきたときに、必要な責任は引き受けつつも、そこから修復できる教室では、少しずつ誠実さが育ちます。
明日、もし教室で子どもの嘘やごまかしに出会ったら、まずは「どうやって白状させるか」ではなく、
「この子が本当のことを言える条件は何か」
を考えてみてください。
その視点の切り替えが、指導を尋問にしないための分岐点です。
引用文献
- Engarhos, P., Shohoudi, A., Crossman, A. M., & Talwar, V. (2020). Learning through observing: Effects of modeling truth- and lie-telling on children's honesty. Developmental Science, 23(1), e12883.
- Festinger, L. (1957). A theory of cognitive dissonance. Stanford University Press.
- Heyman, G. D., Fu, G., Lin, J., Qian, M. K., & Lee, K. (2018). Promoting honesty in young children through observational learning. Journal of Experimental Child Psychology, 167, 234-245.
- Stuewig, J., & McCloskey, L. A. (2005). The relation of child maltreatment to shame and guilt among adolescents: Psychological routes to depression and delinquency. Child Maltreatment, 10(4), 324-336.
- Talwar, V., Lee, K., Bala, N., & Lindsay, R. C. L. (2002). Children's conceptual knowledge of lying and its relation to their actual behaviors: Implications for court competence examinations. Law and Human Behavior, 26(4), 395-415.
- van Eickels, R. L., Muris, P., de Cock, E. S. A., et al. (2025). The parent-child relationship and child shame and guilt: A meta-analytic systematic review. Child Development, 96(3), 907-927.
