子どもと同じ景色を見るために ――「伴走者」になるための4つのマインドセット

「どうしてあの子は、あんなに投げやりな態度をとるのだろう」
「よかれと思って声をかけたのに、逆に強く拒まれてしまった」

教室では、子どもの行動だけが目に入り、その背景にある思いや困り感が見えにくくなることがあります。
第1回から第3回にかけて、本連載では学級の成熟度を見極める大切さ、コントロール中心の関わりがうまくいきにくい理由、そして令和の『生徒指導提要(改訂版)』が示す「支える」生徒指導の方向性を確認してきました(文部科学省, 2022)。

ただ、理念として「支えることが大切だ」と理解できても、実際の教室でどういう心持ちで子どもと向き合えばよいのかは、別の難しさがあります。
そこで本稿では、教員が子どもを一方的に動かそうとする立場から離れ、子どもの見ている世界を理解しようとする立場へ移るための、4つのマインドセットを整理します。
なお、ここでいう「伴走者」とは、『生徒指導提要』の公式用語ではありませんが、必要な指導を行いながら、子どもの成長を支える立場を分かりやすく表すための便宜的な表現として用います(文部科学省, 2022)。

1.「伴走者」になるために最も必要なのは、子どもの内面世界にアプローチするための「4つのマインドセット」を教員自身が身につけることである

子ども理解において、声かけの工夫や場面対応の技術はもちろん重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
教員が子どもを「指示に従わせる対象」として見るのか、それとも「背景をもった存在」として見るのかによって、同じ言葉かけでも意味が変わってしまうからです。

そこで重要になるのが、次の4つのマインドセットです。

①判断の保留: すぐに「正しい・間違い」で裁かない
②視点取得: 子どもの立場から見えている世界を想像する
③グラデーション思考: 指導と支援の比重を状況に応じて調整する
④リフレクティブな姿勢: うまくいかなかった経験を次に生かす材料として振り返る

これらは「規律をなくすこと」ではありません。
むしろ、必要なルールや安全の枠組みを保ちながら、子どもの行動の背景にある困難や未熟さに目を向けるための心の構えです。
『生徒指導提要(改訂版)』が示す「支える」生徒指導とも、この方向性は整合的です(文部科学省, 2022)。

2.なぜ「マインドセット」が技術に勝るのか? ――視点取得・省察・成長可能性をめぐる理論的背景

①視点取得は、子どもの行動の意味を読み違えないために必要である

子どもの行動を理解しようとするとき、私たちはどうしても自分の立場や価値観から見てしまいます。
しかし、認知発達研究では、自分の見方だけでなく、他者には他者の見え方があることを理解することが、人の認知発達において重要なテーマの一つとして扱われてきました(Flavell, 1992)。

教室でこれを言い換えれば、教員が「自分から見れば不適切に見える行動」を、そのまま子どもの人格や態度の問題と決めつけないことが大切だということです。
もちろん行動には指導が必要な場合がありますが、その前後で「この子にはこの場面がどう見えていたのか」と考えることが、子どもの背景理解につながります。

②省察は、経験を単なる消耗で終わらせないために必要である

教室では、うまくいく日もあれば、そうでない日もあります。
問題は、うまくいかなかった経験を「自分はだめだ」で終えるのか、「何が起きていたのか」を振り返るのかです。
Kolb(1984)は、経験から学ぶうえで、経験そのものだけでなく、それを振り返り次に生かす過程が重要であると整理しました。
さらに、Schön(1983)は、実践者が行為の中や行為の後に省察することの重要性を論じています。

教員実践に引きつけて言えば、トラブルは単なる失敗ではなく、授業の構造、学級の状態、自分の関わり方、子どもの困り感を見直す材料にもなりえます。
こうしたリフレクティブな姿勢があると、経験が蓄積ではなく学習になります。

③子どもも教師も変化しうると捉えることが、支援を持続可能にする

Dweck(2006)は、人の能力や可能性を固定的に見るのではなく、変化しうるものとして捉える見方を提起しました。
この議論をそのまま教育実践に単純適用することはできませんが、少なくとも「この子はこういう子だから変わらない」「自分にはこのタイプの子は無理だ」と固定化してしまうと、関わり方は狭くなります。

一方で、「今は難しさが表れているが、支援や経験の積み重ねによって変化する余地がある」と捉えると、教員は子どもを決めつけにくくなります。
これは、支援を続けるうえでの実践的な支えになります。

④こうした見方は、令和の生徒指導の方向性とも親和的である

『生徒指導提要(改訂版)』は、生徒指導を「必要に応じて指導や援助を行いながら、児童生徒の自発的・主体的な成長や発達を支える教育活動」と定義しています(文部科学省, 2022)。
また、自己存在感の感受、自己決定の場の提供、共感的な人間関係、安全・安心な風土の育成といった視点も重視しています(文部科学省, 2022)。

したがって、本稿でいう4つのマインドセットは、提要の文言そのものではないものの、子どもを一律に統制するのではなく、子どもの育ちを支える方向に教員の見方を整えるための実践概念として位置づけることができます。

3.教室で見せる「4つのマインドセット」の超具体的実践シチュエーション

では、実際の現場において、これら4つのマインドセットをどのように発揮していけばよいのでしょうか。よくある教室でのトラブルを例に、具体的な心の動きの実践を見てみましょう。

シチュエーション:5時間目の授業中、ノートを取るように指示したところ、机に鉛筆を何度も激しく叩きつけ、「こんなのやる意味ねーよ!」と大声を上げて授業を中断させたM君の場面。

ここで従来の「コントロール型マインドセット」の教員は、「やる意味がないとは何事だ! 授業の邪魔だから廊下に出なさい!」と、正論とルールで一刀両断(ジャッジ)してしまいます。これに対し、伴走者としての教員は頭の中で「4つのマインドセット」を次のように同時起動させます。

教員の脳内: 「Mくんが怒鳴って授業を中断させたね。この『授業を妨害する行為』自体は規律違反だから淡々と制止(指導)しよう。だけど、『やる意味がないと言ったこと』の良し悪しを、今ここで裁く(ジャッジする)のは一旦ストップだ(保留)」

実際の行動: 感情をフラットにして、低く落ち着いた声で「Mくん、大きな声を出すのはお休みします。まずは授業を続けます」と伝え、深追いせずに全体の授業を維持します。

放課後、静かな空間でM君と向き合います(Flavell, 1992)。

教員の脳内: 「大人から見れば『ただのわがまま』に見える。だけど、Mくんのレンズを通してこの授業は一体どういう景色に見えていたんだろう?(視点取得)」

実際の行動: 「Mくん、さっき『やる意味がない』って教えてくれたよね。責めたいんじゃなくて、Mくんがどんな風に感じていたのか詳しく知りたいんだ。何がそんなに嫌になっちゃった?」と言葉をかけます。これにより、M君から「実は文字を書くのがすごく苦手で、みんなに追いつけなくてパニックになっていた」という本音(世界の見え方)が引き出されます。

教員の脳内: 「なるほど、文字を書く苦手さ(特性)があったんだね。今のクラスは周りの子を『ずるい』と責めないくらい落ち着いている(見極め)。だったら、Mくんへの指導を減らして、伴走の比率を一気に上げよう」

実際の行動: 「そっか、書くのが追いつかなくて苦しかったんだね。じゃあさ、明日からはタブレットで黒板の写真を撮ってノートの代わりにしてもいいっていうルール(合理的配慮の伴走)にしようか。一緒にやってみよう」と、個別の伴走を提案します。

M君が帰った後、夜の職員室で振り返ります(Kolb, 1984)。

教員の脳内: 「今日のトラブルは、私の授業が『板書(文字を書くこと)に偏りすぎていた』という事実を教えてくれる最高のデータだったな。Mくんのおかげで、クラスにいる他のはみ出しそうな子の困り感にも気づけた。よし、明日はもっと視覚的な資料を増やそう(内省の完了)」

実際の行動: 自分を責めて落ち込むのを辞め、翌日の授業改善のエネルギーへと昇華させます。

これら4つのマインドセットを稼働させる際、教員自身の「心のバッテリー残量」を見極めることが何より大切になります。

・教員自身の心身が限界を迎えている(バッテリー0〜20%の)とき

マインドセット2の「視点取得(子どものレンズを借りる)」をしようとしても、脳のエネルギーが足りずにイライラが勝ってしまいます。その時は無理をせず、マインドセット1の「ジャッジの保留(深追いしないフラットな指導)」だけを徹底して定時で帰る、という自分を護るための見極めをしてください。先生自身へのセルフ・コンパッションが最優先です。

・心にある程度のゆとりがあるとき

意識的にマインドセット4のリフレクション(Kolb, 1984)を回すことで、経験を積めば積むほど学級経営が予測可能になり、結果としてさらに心のゆとりが生まれるという、最高の好循環を作ることができます。

4.「正しく動かす人」より、「見立てながら支える人」へ

子どもとの関係を変えるのは、魔法のフレーズそのものではありません。
むしろ、子どもの行動をどう見るか、うまくいかなかった経験をどう意味づけるか、という教員側の認知の枠組みです。

ジャッジを少し保留し、子どもの見ている景色を想像し、指導と支援の比重を見極め、経験を振り返って次につなげる。
この積み重ねによって、教員は「正しく動かす人」から「見立てながら支える人」へと変わっていきます。

『生徒指導提要(改訂版)』が示す生徒指導の方向性に照らしても、これからの教員に求められるのは、強く統制することだけではなく、必要な指導を行いながら、子どもの成長可能性を見失わずに支えることです(文部科学省, 2022)。
その土台になるのが、本稿で整理した4つのマインドセットです。

明日からの教室、ぜひ新しいマインドセットを胸に、子どもたちの隣にそっと立ってみてください。そこには、今までとは全く違う、優しさと主体性に満ちた新しい教室の景色が広がっているはずです。

引用文献

  • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success. Random House.
  • Flavell, J. H. (1992). Cognitive development: Past, present, and future. Developmental Psychology, 28(6), 998–1005. 
  • Kolb, D. A. (1984). Experiential learning: Experience as the source of learning and development. Prentice-Hall.
  • 文部科学省. (2022). 生徒指導提要(改訂版)
  • Schön, D. A. (1983). The reflective practitioner: How professionals think in action. Basic Books.

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