【妨害・おしゃべり】授業中に立ち歩く子の行動の背景にあるもの ――「目立ちたがり」では片づけない学級経営

「静かにしなさい!ってさっき言ったばかりなのに、またおしゃべりが始まった……」
「授業の途中でわざと変な声を上げて笑いを取ろうとする子がいて、話が進まない……」
毎時間の授業が、子どもたちのおしゃべりや立ち歩き、ちょっとした悪ふざけによって遮られてしまう――。
これは、多くの若手の先生が一度は直面する、そしてかなり消耗しやすい学級経営上の壁です。
「私の授業が下手だから、子どもたちが退屈しているんだ」と自分を責めたり、あるいは「授業を妨害するなんて、クラスのみんなの迷惑だ」と強い正義感から激しく叱ってしまったりしていないでしょうか。
しかし、怒鳴ってその場を収めても、次の時間にはまた同じことが繰り返される。
このいたちごっこに、心底疲れてしまっている先生も少なくないはずです。
教育心理学や臨床心理学の視点から、授業を「妨害」するように見える子どもたちの内面を見直してみると、そこには別の理解の仕方が見えてきます。
彼らは授業を壊したいだけとも、単に先生を困らせたいだけとも限りません。
むしろ、「適切なやり方では教室の中に居場所をつくれない」「注目されないと不安になる」「つながり方がわからない」といった状態が、おしゃべりや立ち歩き、悪ふざけという形で表れていることがあります(Bowlby, 1982; Goagoses et al., 2026; Vösgen-Nordloh et al., 2024)。
今回は、授業中の妨害行動やおしゃべりの背景にある「所属したい」「認められたい」という心理を手がかりに、クラス全体の学びを守る「指導」と、その子の居場所づくりを支える「伴走」を、どのようにブレンドしていけばよいのかを具体的に整理します。
1.妨害・おしゃべりへの第一対応は、「感情的に叱る」ではなく「規律を保ちつつ、適切な参加の場をつくる」
授業中の妨害やおしゃべりに対するアプローチの結論は、「不適切な行動そのものは短く淡々と止める一方で、その子が満たそうとしている所属感や承認の欲求は、授業や学級の中で別の形で満たせるように支援する」ということです。
叱ることで関わるのをやめ、別の役割を手渡す
授業中におしゃべりが止まらなかったり、周囲を巻き込んで妨害行動をしたりする子どもに対して、教師が感情を込めて長く叱り続けると、結果として「悪い行動をすると強く注目してもらえる」という学習を強めてしまうことがあります。
これは、問題行動の減少につながりにくい対応です。
一方で、クラス全体の学びを守るために、「今はしゃべらない」「今は席を離れない」という枠組み自体は明確に保つ必要があります。
つまり必要なのは、
- 行動は止める
- 人格は責めない
- 注目のされ方を組み替える
という三つです。
教師が、問題行動にはフラットに対応しつつ、その子が「認められたい」「つながりたい」というエネルギーを、係活動や発表、班の役割などのプラスの行動へと交通整理できるとき、学級経営はかなり安定しやすくなります(Lei et al., 2016; Di Lisio et al., 2025)。
2.なぜあの子は目立つ行動を繰り返すのか ――「所属」と「関係の安全」から見る
子どもたちが授業中に関係のないおしゃべりをしたり、立ち歩いて周囲の気を引こうとしたりする背景には、人間の基本的な欲求や、関係における安心・不安の問題が関わっていることがあります。
① 選択理論が示す「所属したい」「価値ある存在でいたい」という欲求
グラッサーの選択理論では、人間の行動は基本的欲求を満たそうとする選択として理解されます。
そこには、誰かとつながりたいという「所属・愛の欲求」と、自分が価値ある存在だと感じたい「力の欲求」が含まれます(Glasser, 1998)。
教室の中で、勉強が苦手だったり、発言で認められる経験が乏しかったり、友達との適切な関わり方がうまくいかなかったりする子どもにとって、45分間の授業は「自分が活躍できない時間」になりやすいことがあります。
そのとき子どもは、望ましい方法ではないにせよ、
- おしゃべりをして友達とつながる
- ふざけて笑いを取る
- 立ち歩いて存在感を出す
といった行動を通して、自分の居場所や存在感を確かめようとすることがあります。
もちろん、すべての私語や立ち歩きがこの理論だけで説明できるわけではありません。
ただ、子どもが「何を得ようとしてその行動を選んでいるのか」を考える補助線としては有効です(Glasser, 1998)。
② 愛着理論から見る「注目されないと不安」というシグナル
もう一つ、臨床心理学において重要なのが、ボウルビィの愛着理論です。
愛着理論では、人は不安や緊張を感じたとき、安心できる相手とのつながりを求めると考えます(Bowlby, 1982)。
学校場面にそのまま単純化はできませんが、教師との関係が不安定だったり、これまでに否定的なやりとりが多かったりする子どもでは、「先生が自分を見ているか」「見捨てられていないか」を過敏に確かめようとする行動が出ることがあります。
その表れ方が、素直な相談や援助要請ではなく、
- 注意されるような私語
- わざと目立つふるまい
- 教師の近くへの立ち歩き
になることもあります。
近年の研究でも、外在化行動の多い子どもほど教師―生徒関係を不利にしやすい一方で、関係の質はその子の社会情緒面や学業面にとって保護因子にもなりうることが示されています(Lei et al., 2016; Vösgen-Nordloh et al., 2024)。
また、学校への所属感が低いほど外在化行動が高まりやすいことも、系統的レビューとメタ分析で示されています(Goagoses et al., 2026)。
つまり、目立つ行動を繰り返す子どもをただ「迷惑な子」と見てしまうと、行動の背景にある「つながりの不安」や「所属感の弱さ」を見落としやすいのです。
3.おしゃべり・妨害をプラスのエネルギーに変える3ステップの役割シフト
では、実際の授業中に子どものおしゃべりや妨害行動が始まったとき、教師はどのように動けばよいのでしょうか。ここでは、クラス全体の学びを守りながら、その子のエネルギーを別の形に変えるための実践ステップを見てみます。
シチュエーション
理科の授業中、E君が周りの席の友達に大声で話しかけ、変な顔をして笑いを取り、周囲のグループの作業を止めてしまっている場合。
ここでやってしまいがちなNG対応は、
「Eくん! ふざけるなら後ろに立っていなさい!」
と全体の前で恥をかかせることです。これはその場では止まっても、注目の獲得や対立の強化につながりやすく、長期的には逆効果になりやすい対応です。
必要なのは、次のような「見極めとシフト」のアプローチです。
ステップ1:【指導】感情をゼロにして、短く具体的に行動を止める
E君のふざけに対して、教師が笑って乗ってしまったり、逆に強く怒鳴ったりすると、どちらにしても余計な注目を増やします。
周りの子どもたちに対しても、「ふざけても授業は中断しない」「ルールはぶれない」という安心感を示すために、フラットな声で短く伝えます。
教師:
「Eくん、今は実験の手順を確認する時間です。話を止めて、前を見ます」
「今はグループ作業です。自分の班にもどります」
注意の目的は、行動の制止だけです。
ここで長い説教を始めると、E君に不適切な注目を与えてしまいます。
伝えたら終わりにして、授業を再開します。
ステップ2:【伴走】個別の場面で、その子の“向かっていた先”を言語化する
授業の切り替わりや休み時間など、1対1で話せるタイミングでE君に近づきます。
ここでは行動を正当化するのではなく、その行動の奥にある欲求を読み取り、言語化します。
教師:
「さっき、みんなの注目をかなり集めていたね」
「Eくんって、人の反応を動かす力は強いよね」
「たぶん、みんなとつながりたい気持ちとか、場を動かしたい気持ちはあるんだと思う」
ここで大切なのは、
“ふざけたこと”を褒めるのではなく、“エネルギーの方向”を読むことです。
「君は迷惑な子だ」ではなく、
「君には人を巻き込む力がある。でも使い方は考えよう」
というメッセージに変えるわけです。
この視点は、教師―生徒関係を単なる統制関係ではなく、支援的な関係へと移すうえで重要です(Di Lisio et al., 2025; Vösgen-Nordloh et al., 2024)。
ステップ3:【伴走主導の協働】承認される“適切な舞台”を先に用意する
エネルギーを認めたうえで、それを授業や学級の中で役立つ形に置き換えます。
教師:
「その、場を動かす力は使えると思う」
「次の班活動で、説明係をやってみる?」
「発表の導入だけ、Eくんに任せてもいい?」
「先生が合図したら、実験器具を配る役をお願いできる?」
「目立ちたい」「つながりたい」というエネルギーを、
「発表の司会」
「班の進行役」
「配付係」
「まとめの一言を言う役」
といった、教室の中で承認される役割へつなぎ変えるのです。
問題行動をゼロにしようとするだけでは、代わりの満たし方が残りません。
だからこそ、「だめ」を言うだけで終わらず、「では、どこでその力を使うか」までセットで渡すことが必要です。
⚠️ 学校やクラスの「成熟度」に応じた見極めのポイント
おしゃべりや立ち歩きの背景には、その子個人の特性だけでなく、クラス全体の状態も大きく関係します。ここを見誤ると、個別支援だけではうまくいきません。
1.学級全体がまだ未成熟で、私語が連鎖しやすい場合
4月から6月の立ち上がり期や、課題の多いクラスでは、一人の私語がすぐに全体へ広がります。この場合は、ステップ1の「指導」の比率をかなり高める必要があります。
一人がしゃべり出したときに教師が曖昧な態度を取ると、クラス全体に「このくらいなら大丈夫」というメッセージが流れます。
まずは、全員が安心して学べる静けさを教師が守ることが優先です。
個別の伴走は必要ですが、土台となる規律が崩れている段階では、それだけでは支えきれません。
2.学級が安定し、子ども同士の関係が育っている場合
逆に、学級が安定していて、子ども同士の関係性がある程度育っている場合は、教師が前面に立って統制し続けなくてもよくなります。
たとえば、
「今の声で、周りの班はどう感じたかな」
「今は笑いを取る場面だったかな」
と、集団の中で振り返らせることで、周囲との関係の中で行動を調整させることができます。
ただしこれは、学級の関係性ができてからの話です。未成熟な段階でこれをやると、単なる同調圧力や吊し上げになりかねません。クラスの成熟度を見極めて使い分ける必要があります。
4.問題行動を「困った子」の証拠ではなく、エネルギーの使い方の問題として捉え直す
授業中におしゃべりや立ち歩きを繰り返す子どもを、単なる「困ったトラブルメーカー」として捉えてしまうと、教師の毎日は叱ることで終わり、消耗していきます。
しかし、選択理論や愛着理論、さらに近年の教師―生徒関係や学校所属感の研究を手がかりにすると、その子の行動を「不適切な居場所づくり」や「関係の不安の表れ」として理解できる場面があることが見えてきます(Glasser, 1998; Bowlby, 1982; Lei et al., 2016; Goagoses et al., 2026)。
授業を妨害するほどの強いエネルギーを持っている子は、見方を変えれば、クラスを動かす力も持っている子です。
もちろん、だからといって問題行動を放置してよいわけではありません。
必要なのは、行動は止めるが、居場所は奪わないという姿勢です。
嵐を起こす風を、力づくで押さえ込もうとするのではなく、帆の向きを変えて推進力に変えるように。
教師が、完璧に押さえつける指導者であることをやめ、その子のエネルギーを学級の中で生きる役割へと導く伴走者になれたとき、かつての「妨害する子」は、クラスを動かす「使える力」を持った子へと変わっていく可能性があります。
明日、もし教室で大きな私語が聞こえたら、怒鳴る前に一呼吸おいてみてください。
「あのエネルギーを、次はどこで使わせるか」
その視点を持てるだけで、対応はかなり変わります。
引用文献
- Bowlby, J. (1982). Attachment and loss: Vol. 1. Attachment (2nd ed.). Basic Books.
- Di Lisio, G., Halty, A., Berástegui, A., Milá Roa, A., et al. (2025). The longitudinal associations between teacher-student relationships and school outcomes in typical and vulnerable student populations: a systematic review. Social Psychology of Education. Springer
- Glasser, W. (1998). Choice theory: A new psychology of personal freedom. HarperCollins.
- Goagoses, N., Brosig, K., von Düring, U., & Wilke, J. (2026). A systematic review and meta-analysis of the association between sense of school belonging and externalizing behavior problems. Discover Psychology. Springer
- Lei, H., Cui, Y., & Chiu, M. M. (2016). Affective teacher-student relationships and students' externalizing behavior problems: A meta-analysis. Frontiers in Psychology, 7, 1311. Frontiers in Psychology
- Vösgen-Nordloh, M., Kulawiak, P. R., Bolz, T., et al. (2024). Why not ask them? A systematic scoping review of research on dyadic teacher-student relationships as perceived by students with emotional and behavioral problems. Frontiers in Education, 9. Frontiers in Education
