子ども同士のけんか、どこまで入る?“見守り”と“介入”の境界線

子ども同士のけんかやトラブル、どう関わればよいか迷うことはありませんか?
「放っておくと悪化するかもしれない」「でも入りすぎると依存的になる」——
そんな葛藤を、日々の教室で感じている先生は少なくありません。
子どものトラブルは「どこまで関わるべきか」は難しいものです。
今でも先生方のカウンセリングで、このテーマは最も多く語られます。
この記事では、教師が“見守り”と“介入”のバランスをどうとるかを、心理学的な視点から整理します。
当たり前の「仲裁」や「指導」とは少し違う、子どもの“成長を支える関わり方”を一緒に考えていきましょう。
子どものけんかは、実は信頼や社会性を育てるチャンスでもあります。
教師がどう“まなざし”を向けるかで、トラブルの意味は変わります。
1.Point:子ども同士のけんかは、教師が「すべて解決しよう」としないことが大切です。
介入が必要な場面もありますが、子どもが自分たちで関係を修復しようとする力を信じて待つことも、教育的な関わりのひとつです。
教師の役割は「仲裁者」ではなく「支援者」。
感情の整理を助け、互いに話し合える土台をつくることこそ、長い目で見て子どもの成長につながります。
2.Reason:なぜ、教師は“入る・入らない”の判断に迷うのか
子ども同士のトラブルは、学校生活のなかで最も頻繁に起こる出来事のひとつです。
たとえば「友達に意地悪をされた」「仲間外れにされた」「遊びでトラブルになった」など、一見ささいに見える問題でも、放置すれば関係悪化につながることがあります。
一方で、すぐに大人が介入してしまうと、子どもが自分で考える機会を奪ってしまうこともあります。
多くの先生が「見守り」と「介入」の間で迷うのは、この“二重のリスク”があるからです。
心理学的に見ると、この迷いの背景には「保護の責任」と「成長の促進」という、二つの価値の衝突があります。
教師は子どもの安全と安心を守る責任をもっています。
しかし同時に、子どもが自分で考え、関係をつくる力を育てるのも教師の使命です。
このバランスを誤ると、たとえば次のような状況が起きます。
・介入しすぎて、子どもが自分で話し合う力を失う
・放置しすぎて、いじめや孤立を見過ごす
・トラブルの原因を「どちらが悪いか」でしか考えられなくなる
この「板挟み」に多くの先生が疲れてしまいます。
実際、先生の中にも、「子ども同士のけんかを見るたびに胃が痛くなる」と話す方がいました。
「見守っていたら、後で保護者から“先生は何もしてくれない”と言われるかもしれない」と不安になることもあります。
つまり、教師が苦しむのは「対応の仕方がわからないから」ではなく、「どんな価値を優先すべきか」が明確でないからなのです。
3.Example:現場で使える「関わり方の3ステップ」
ここでは、わたしがこれまでの相談や現場での経験からまとめた「関わる/見守る」の判断と支援のステップを紹介します。
①【観察】まずは“事実”を集める
トラブルが起きたとき、すぐに「どうしたの?」と声をかけたくなりますが、まずは感情ではなく事実を見ることが大切です。
誰が・どんな場面で・何をしたのかを、できるだけ主観を交えずに確認します。
アドラー心理学では「事実」と「解釈」を区別することが強調されます。
「AさんがBさんに消しゴムを取られた」と「AさんがBさんにいじめられた」は、まったく異なる認知です。
教師が早合点すると、トラブルが“構造化”されてしまうこともあります。
②【支援】感情を整理する“安全な場”をつくる
子どもはトラブルの直後、感情が高ぶっています。
怒りや悲しみの中では、相手の気持ちを理解することは難しいものです。
まずは「あなたはどう感じたの?」と、気持ちを言葉にする場を設けましょう。
このとき、評価や指導をせずに聴くことが重要です。
「そんなこと言っちゃダメ」「仲良くしなさい」ではなく、「そう感じたんだね」「それはつらかったね」と受け止める。
これだけでも、子どもの心は落ち着き、次の行動を考える力が戻ってきます。
また、もう一方の子どもにも同じように話を聴きます。
感情を出す機会を「公平に」設けることで、双方が安心して次のステップに進めます。
③【共有】子ども自身に“関係修復”の方法を考えさせる
感情が落ち着いたあとに、初めて話し合いの場を設定します。
このとき、教師は「解決者」ではなく「進行役」として関わります。
「どうすればお互いに気持ちよく過ごせるかな?」
「これからどんなふうにしたい?」と未来志向の問いを投げかけましょう。
大人が答えを与えず、子ども自身に考えさせることで、社会的スキル(アサーション、共感的理解、自己表現)が育ちます。
必要に応じて、非暴力コミュニケーション(NVC)の考え方を取り入れてもよいでしょう。
事例:介入を“手放した”ときの変化
ある先生は、仲の悪い2人の女子児童のトラブルで毎週呼び出しをしていました。
しかし、ある日「今回は自分たちで話してごらん」と任せたところ、数日後に2人で一緒に帰る姿を見たそうです。
「わたしが“調停役”をやめた瞬間、2人の関係が変わった」と話してくれました。
もちろん、放任ではいけません。
見守りながら、必要なときにだけ“土台”を支える。
教師が「関係を取り持つ」より、「信頼して待つ」ほうが、長期的には子どもの成長を促すのです。
4.Point
子ども同士のトラブルでは、教師が「入る・入らない」を即断する必要はありません。
大切なのは、
・感情の整理を助ける
・子どもが自分で考える時間をつくる
・信頼して見守る
という3つの姿勢です。
介入は「子どもが自分の力で関係を修復できない」ときだけに限定してみましょう。
“すぐに解決すること”より、“自分で考える機会”を保障することこそ、教育的な関わりです。
まとめ
教師の仕事は、トラブルを“なくすこと”ではありません。
むしろ、トラブルを“どう活かすか”が大切です。
けんかやすれ違いの中で、子どもは「人と関わる力」を学びます。
その学びを奪わないようにするためには、教師が「すぐに入らない勇気」をもつことが求められます。
もし今、毎日のように仲裁に追われているなら、「今回は少し待ってみよう」と自分に言ってみてください。
子どもの力を信じるまなざしが、クラスの関係性を少しずつ変えていきます。

