グループ活動が怖い子どもに、どう寄り添えばいいのか(小学生編)

「グループ活動の時間になると、いつも一人の子がいる」
「班を作ろうとすると、泣き出してしまう子がいる」
「みんなで何かをするとき、必ず教室の隅で固まってしまう」
こんな場面に出会ったとき、先生方はどんな気持ちになるでしょうか。
その子の気持ちを想像すると胸が痛くなる一方で、「どうしたらいいんだろう」と戸惑いを感じることもあるかもしれません。
わたしはこれまで多くの先生方のコーチングやカウンセリングに携わってきました。
その中で、集団活動に恐怖心を抱く子どもたちと出会い、悩む先生方のお話をたくさん聞いてきました。
今日お伝えしたいのは、「無理にグループに入れる」のではなく、「その子なりのペースで安心を積み重ねる」という新しい視点です。
実は、集団活動への恐怖心は、適切な関わり方さえわかれば、必ず小さな変化から始まっていくものなのです。
この記事を読んでいただくことで、グループ活動に不安を感じる子どもの心の動きを理解し、明日からクラスで実践できる具体的な方法を手に入れることができます。
その子の「今ここ」から始める支援こそが、真の学級経営だとわたしは考えています。
1.Point:その子の「安心」から始める集団活動支援
グループ活動に恐怖心を抱く子どもへの支援で最も大切なのは、「参加させること」ではなく「安心感を育むこと」です。
多くの先生方が「みんなと一緒に活動してほしい」という思いから、つい参加を促してしまいがちです。
しかし、トラウマや強い不安を抱える子どもにとって、無理な参加の強要は逆効果になることがあります。
本当に必要なのは、その子が「この場所は安全だ」「失敗しても大丈夫だ」「自分のペースが認められている」と感じられる環境づくりです。
安心感が土台にあってこそ、子どもは自然と「やってみようかな」という気持ちを育むことができるのです。
そのためには、活動への参加そのものをゴールとせず、その子なりの関わり方を認め、小さな変化を大切にする視点が欠かせません。
この考え方の転換こそが、真の支援の第一歩となります。
2.Reason:なぜ「安心」を最優先にする必要があるのか
集団活動に恐怖心を抱く子どもたちの背景には、様々な要因があります。
過去の失敗体験、感覚過敏、コミュニケーションへの不安、そして時にはいじめなどの辛い経験が隠れていることもあります。
わたしが知っている子どもたちの中にも、こんな子がいました。
Aくんは2年生の男の子で、グループ活動になると必ず保健室に逃げ込んでしまう子でした。
担任の先生は「みんなと一緒にやってほしい」という思いから、何度も教室に連れ戻そうとしていました。
しかし、その度にAくんのパニックは激しくなり、クラス全体の雰囲気も重くなってしまいました。
後でわかったことですが、Aくんは1年生の時に、グループ活動中に大きな声で怒られた経験があり、それ以来「みんなでやること=怖いこと」という認識を持ってしまっていたのです。
このような状況で無理に参加を促すと、子どもの心の傷はより深くなってしまいます。
脳科学の研究でも、恐怖や不安が強い状態では学習や成長に必要な機能が働かないことがわかっています。
一方で、安心できる環境では、子どもは本来持っている「人とつながりたい」という気持ちを自然と表現し始めます。
先ほどの子どもも、無理強いをやめて安心感を優先した瞬間から、少しずつ変化を見せてくれました。
つまり、「参加しなさい」と言葉で促すよりも、「ここにいても大丈夫だよ」というメッセージを行動で示すことの方が、はるかに効果的なのです。
急がば回れ。その子の安心が、結果的に集団への参加への道筋を作っていくのです。
3.Example:具体的な実践方法と成功事例
(1)段階的アプローチの実際
ステップ1:まずは「その場にいる」ことから
先ほどのAくんの事例では、担任の先生と相談して、まず「教室にいるだけでOK」という環境を作りました。
グループ活動の時間には、Aくんには「見学係」という特別な役割を与え、活動の様子をスケッチブックに絵で記録してもらいました。
最初は教室の一番後ろから、次第に少しずつ前へ。3ヶ月ほどかけて、ようやくグループの近くで見学できるようになりました。無理に参加を促さなかったからこそ、Aくんは自分のペースで安心感を積み重ねることができたのです。
ステップ2:選択肢のある参加方法
安心感が育ってきたら、次は「参加の仕方を選べる」環境を作ります。
例えば、4人グループでの調べ学習では、以下のような役割を用意します:
- 本やタブレットで調べる係
- 調べたことをまとめる係
- 絵や図を描く係
- 発表する係
- 時間を計る係
「どれか一つでも、やってみたいものはある?」と選択肢を示すことで、子どもは自分にできそうなことから挑戦できます。
大切なのは、どの役割も同じように価値があることを、クラス全体に伝えることです。
ステップ3:協力型活動の工夫
競争ではなく協力を基本とした活動を意識的に取り入れます。
Bさん(小学4年生担任)のクラスでは、「クラス新聞作り」という活動を月に一度行っていました。
一人ひとりが得意なことを活かして記事を書いたり、イラストを描いたり、レイアウトを考えたりする中で、普段グループ活動が苦手な子も、自然と「自分にできること」を見つけて参加するようになりました。
特に印象的だったのは、いつも一人でいるCちゃんが、「給食の残り具合を調べる記事」を担当したことです。
人との会話は苦手でしたが、数字を調べることは得意だったCちゃん。
毎日給食室に通って栄養士さんにインタビューし、グラフを作って発表してくれました。
(2)具体的な声かけの実例
恐怖心を抱く子どもへの声かけも、工夫次第で大きく変わります。
よくない声かけ例:
「みんなも待ってるから、一緒にやろう」
「大丈夫だから、頑張って参加して」
「いつまでも一人じゃダメでしょ」
効果的な声かけ例:
「今日はどんな気持ち?見るだけでもいいからね」
「〇〇さんのペースで大丈夫だよ」
「ここにいてくれるだけで、先生は嬉しいな」
違いがおわかりいただけるでしょうか。前者は子どもにプレッシャーを与える一方で、後者は子どもの気持ちに寄り添い、安心感を提供しています。
(3)環境づくりの具体例
教室環境も、恐怖心のある子どもには大きな影響を与えます。
D先生(小学3年生担任)のクラスでは、教室の後ろに「ほっとコーナー」という小さなスペースを作りました。
そこには柔らかいクッションや、心を落ち着かせる絵本、小さなぬいぐるみなどを置いて、「疲れたときや不安になったときは、いつでもここで休んでいいよ」と伝えていました。
最初はそのコーナーばかりにいた子どもたちも、そこが「逃げ場」ではなく「安全基地」だとわかると、そこから少しずつ活動の輪に近づいていくようになりました。
(4)成功の実例
これらの取り組みを続けることで、多くの子どもたちに変化が見られました。
E先生のクラスでは、半年間一度もグループ活動に参加できなかったFくんが、ある日突然「僕も手伝いたい」と言い出したそうです。
きっかけは、いつも見学していた「教室の花壇づくり」で、みんなが困っているときに、「その花の名前、図書室で調べてきてあげる」と自分から申し出たことでした。
Fくんにとって、図書室で一人で調べることは安心してできる活動でした。
そこから始まった小さな貢献が、やがて大きな自信へとつながっていったのです。
4.Point:明日から始める3つの実践ポイント
これまでお話しした内容を、明日からの実践につなげるために、特に重要な3つのポイントをお伝えします。
(1)参加の定義を広げる
「グループ活動への参加」を「一緒に作業をすること」だけに限定せず、「その場にいること」「見ていること」「応援すること」なども立派な参加として認めましょう。
子どもにとって、今できる最大限の参加の形を大切にすることで、次のステップへの土台が築かれます。
(2)選択肢を常に用意する
「やる」「やらない」の二択ではなく、「どんな形で関わりたいか」を選べる環境を作りましょう。
見学係、記録係、準備係、片付け係など、その子が安心してできる役割を一緒に見つけてあげてください。
選択権があることで、子どもは自分をコントロールできている感覚を取り戻せます。
(3)小さな勇気を見逃さない
恐怖心のある子どもが見せる小さな変化や勇気を、具体的に言葉にして伝えましょう。
「今日は5秒長く、みんなの様子を見てくれたね」「昨日より一歩近くにいてくれて、嬉しかったよ」といった声かけが、次への一歩を生み出します。
そして何より大切なのは、先生自身が焦らないことです。
その子の変化には時間がかかるかもしれません。
でも、安心できる大人がそばにいるという経験は、必ずその子の心に届きます。
結果を急がず、プロセスを大切にする姿勢こそが、本当の支援なのです。
まとめ
グループ活動に恐怖心を抱く子どもたちにとって、最も必要なのは「安心できる関係」と「自分らしい参加の形」です。
無理な参加の促しではなく、その子のペースを尊重し、小さな一歩を大切にする関わりを続けていけば、子どもは必ず自分なりの方法で集団とつながっていきます。
明日からぜひ、「参加しなさい」ではなく「どんな風に関わりたい?」という問いかけから始めてみてください。
その子の笑顔が、きっと教室に温かい変化をもたらしてくれるはずです。