「あれもこれも」からの脱却。指導要領の「網羅主義」をどう捨てるか

こんなこと、感じたことはありませんか?
- 教科書を最後まで終えないと、どこか落ち着かない
- 省いた内容があると、「指導が足りない」と言われそうで不安
- 働き方改革と言われても、授業の中身は減らせない
もしかしたら、あなたも今、そんなプレッシャーの中で毎日を回しているかもしれません。
わたしも学校現場や大学で先生方と話す中で、「あれもこれも教えなければならない」という感覚が、授業だけでなく心身の余裕を奪っている場面を何度も見てきました。
次期学習指導要領(2030年度から順次実施予定)の議論で、「重点化・構造化」が改めて強調されています。
文部科学省の論点整理(2025年9月)では、「分かりやすく使いやすい学習指導要領」を目指し、各教科の中核的な概念を中心に内容を構造化する方針が示されました。
実は、現行の指導要領でも「網羅主義ではなく重点化」は基本方針でした。
しかし、その趣旨は現場に十分伝わらず、「教科書を最初から最後まで教えなければ」というプレッシャーが今も教師を苦しめています。
この記事では、教科書を1ページ目から最後まで教え切るという思い込みをいったん脇に置き、指導要領が本当に求めている授業の姿を整理します。
何を削るかではありません。何に力を注ぐかを決める話です。
授業が少し軽くなり、働き方にも余白が生まれる。
そんな視点を、ここから一緒に考えていきませんか。
1.Point:「全部やる」ことをやめたとき、授業も働き方も動き出します
結論からお伝えします。
学習指導要領は「何を教えるか」の基準を示すものであり、教科書はその具体化の一例です。
教科書会社ごとに内容・分量が異なることが、その証拠です。
次期改訂では「less is more(少なく、しかし深く)」の考え方が明示されます。
量の網羅ではなく、質の深化。
中核的な概念を軸に、児童生徒の深い理解を促す授業設計が求められます。
また、調整授業時数制度により、各教科で最大1割程度の時数調整が可能になります。
これは「削る余地」ではなく、「深める時間」を生み出すための制度です。
「教科書を全部やらなければ」という思い込みは、指導要領の誤解から生まれています。
指導要領が求めているのは、「何に力を注ぐか」を教師が判断することです。
2.Reason:なぜ「網羅主義」を捨てられないのか
理由① 「教科書を全部教える=責任」という誤解
教科書は網羅的に作られる傾向がありますが、それは選択肢を提供するためです。
すべてを扱うことを前提としているわけではありません。
現場の裁量で重点化・精選することが、本来の役割です。
次期改訂では「教師が使いやすい指導要領」を目指し、中核概念を明示することで、教師が判断しやすい環境が整いつつあります。
「全部やらなければ子どもに申し訳ない」という思いは、教師の誠実さの表れです。
しかし、その誠実さが、かえって子どもの深い学びを奪っている可能性があります。
理由②:網羅主義が深い学びを阻害している現実
「次に進まなければ」というプレッシャーが、対話や思考の時間を奪います。
子どもが「なんで?」と問いかけても、「時間がないから次に進もう」
グループで議論が深まりかけても、「もう終わりにしよう」
考えをノートに整理する時間も、「宿題にしよう」
これでは、主体的・対話的で深い学びは実現できません。
石井英真氏は、「質の高い、深い学びの実現」のための構造化を提言しています。
網羅ではなく、核となる概念を深く理解する時間を確保することが、これからの授業設計の基本です。
理由③:働き方改革との整合性
授業準備の負担軽減は、内容の精選から始まります。
「何に力を注ぐか」を明確にすることで、準備時間も効率化されます。
全項目について詳細な教材研究をする必要はなく、核となる部分に時間を集中できます。
記録・評価の負担も軽減されます。
全項目を評価する必要はありません。
重点化した部分の評価に集中することで、質の高いフィードバックが可能になります。
働き方改革とは、単に労働時間を減らすことではなく、本質的な仕事に集中できる環境を作ることです。
3.Example:「重点化」と「精選」をどう実行するか
具体例①単元の「核」を特定する
まず、「この単元で、子どもにどんな力をつけたいのか」を明確にします。
例:中学社会・歴史「江戸時代」
❌「参勤交代の仕組みを全部覚える」
⭕「幕藩体制という支配システムの本質を理解する」
次期改訂で重視される「中核的な概念(ビッグアイデア)」を軸に、何を深めるかを決定します。
例:小学校国語「物語文の読解」
❌「登場人物全員の気持ちを細かく読み取る」
⭕「人物の心情変化を、描写から根拠を持って読み取る」
例:中学数学「一次関数」
❌「すべての問題パターンを網羅する」
⭕「変化の様子を式・表・グラフで表現し、関連づける」
この「核」が明確になれば、授業設計の軸が定まります。
具体例② 扱わない内容を「理由つき」で決める
扱わない≠手抜き。
扱わない理由を明確にすることが説明責任です。
例:中学社会・歴史「江戸時代」
扱わない内容:参勤交代の詳細な経路や費用
理由:幕藩体制の全体像の理解を優先。詳細は資料集で確認可能。
例:小学校国語「物語文の読解」
扱わない内容:全ての登場人物の詳細分析
理由:主人公に焦点を絞り、深く読む経験を優先。
例:中学理科「化学変化と原子・分子」
扱わない内容:複雑な化合物名の暗記、発展的な反応式
理由:暗記より理解を優先。複雑な内容は高校で扱う。
この判断を、年間指導計画や単元計画に記録として残します。
具体例③ 深めた授業を「成果」として残す
評価は量ではなく質。全項目を評価する必要はありません。
例:中学社会・歴史「江戸時代」
「幕藩体制の本質について、生徒Aは『大名を経済的に弱らせることで統制した』という視点から深く考察できた」
記録は簡潔に。
ポートフォリオやルーブリックの活用も有効です。
重点化した部分の評価に集中することで、質の高いフィードバックが可能になります。
4.Point:「何に力を注ぐか」が教師の専門性です
網羅主義を捨てることは、手抜きではなく、教師の専門性の発揮です。
「この単元で、生徒にどんな力をつけたいのか」
「そのために、何を深め、何を扱わないのか」
これを判断し、設計することこそが、教師の仕事の核心です。
次期改訂では、「分かりやすく使いやすい学習指導要領」が目指されます。
中核的な概念を軸にした構造化により、教師が判断しやすい環境が整いつつあります。
授業が少し軽くなることで、教材研究や生徒との対話に時間を使えるようになります。
働き方改革とは、単に労働時間を減らすことではなく、本質的な仕事に集中できる環境を作ることです。
「あれもこれも」と焦る必要はありません。
「これだけは」という核を定め、そこに時間と情熱を注ぐ。
その選択が、子どもの深い学びを生み、あなたの働き方も変えていきます。
まとめ:「全部やる」を手放すことは、専門性を下げません
次期学習指導要領(2030年度から順次実施)は、「重点化・精選」を改めて明確にします。
「あれもこれも」ではなく、「これだけは」を選ぶ。
その選択が、生徒の深い学びを生み、教師の働き方も変えていきます。
今からできることは、年間指導計画を見直し、「核となる概念」を特定すること。
そして、扱わない内容を「理由付きで」記録することです。
「教科書を最後まで終わらせなきゃ」というプレッシャーから、「この単元で、子どもに何を理解させたいか」という本質へ。 選ぶ勇気を持つことが、これからの教師に求められる専門性です。
私もいつも道半ばです。
一緒に学んでいけたら嬉しいです。
