“問題行動ゼロ”を目指さなくていい:新任が消耗しないための行動の見立て

毎日、同じ子が同じように注意を受ける。
叱っても、声をかけても、状況が変わらない。
そんな日々が続くと、自分の指導力が足りないのでは…と胸が締めつけられることがあるのではないでしょうか。

わたしは長年、先生の相談に関わってきました。
その中で「問題行動がある=先生の力不足」という思い込みに苦しむ姿を何度も見てきました。

しかし、心理学の観点では問題行動は“機能(目的)”があると考えます。
つまり、子どもは困らせたいから動いているのではなく、何かを得るため・避けるために行動しているという視点です。

この視点を持つと、叱るか否かの二択から抜け出せます。
問題行動を“止める”のではなく“意味を読み取って対応する”ことで、子どもは少しずつ落ち着き始めます。

今日は、ポジティブ行動支援(PBS)の考え方をもとに、問題行動が続くときの見立て方、気持ちが揺れる場面での心の守り方、そして改善の糸口の探し方をお伝えします。

結論は、言えば・・・。
問題行動ゼロを目指す必要はありません。
“わかる・少し変わる・積み重なる”を一緒に見つけていきましょう。

1. Point:問題行動の“機能(目的)”をつかむ

問題行動が続くのは、先生の力不足ではありません。
問題行動には“機能(目的)”があり、その機能(目的)が満たされているかどうかによって行動は変わります。
つまり、叱っても止まらないときは、指導が足りないのではなく、子どもの行動の目的をつかめていないだけです。

行動の意味を理解すると、「困らせる子」「手のかかる子」だったイメージが「助けが必要な子」「まだ言葉にならない願いを抱える子」へと変わります。
この視点の変化が起きるだけで、対応の幅は一気に広がります。

問題行動ゼロを目指す必要はありません。
行動を“止める”のではなく“読み解く”ことこそが、ポジティブ行動支援(PBS)の本質です。

2. Reason:子どもは欲求を行動で伝える

新任の先生が最も苦しむのは、問題行動そのものではありません。
本当に苦しめているのは、次のような心の声です。

  • 「わたしのクラスだけ荒れている気がする」
  • 「何をしてもうまくいかないのは、わたしのせいだ」
  • 「指導力がないって思われているかもしれない」

子どもを傷つけたくない。
だけど叱らないといけない。
叱っても変わらない。
またイライラしてしまう。
落ち込む。
自分を責める。

この螺旋に入ると、毎朝の教室の扉が重く感じてしまいます。
わたしが若い先生から聞いてきた悩みの多くが、この螺旋のどこかにありました。

しかし、心理学的には、
問題行動は先生の力不足の結果ではなく、「機能が満たされていない行動のサイン」と捉えます。

機能とは、行動が子どもにとって果たす役割です。
わかりやすく言うと、

  • 注目を集めたい
  • 比較から逃れたい
  • 苦手な課題を避けたい
  • 仲間に入りたい
  • 大人に頼りたい
  • 不安を紛らわせたい

こうした“心のニーズ”が別の形で表れていることが多いのです。
子どもは欲求をうまく言葉にできないとき、行動で伝えます
だから、問題行動が続いているときは、
「わたしの言うことを聞かない子」ではなく
「困っていることを言葉にできず、行動で知らせている子」と捉える必要があります。

ここで視点が変わります。

叱る・褒める・注意する前に、行動の意味を見立てること。
この一歩で、指導の苦しさは大幅に減ります。

3. Example:問題行動の意味を読み解き、改善につなげるための方法

ここからは、「問題行動の意味を読み解き、改善につなげる」ための実践方法を紹介します。
どれも今日から使えるものばかりです。

① 行動の“見立て”をする4つの問い

問題行動が起きたとき、次の4つを心の中で確認します。

  1. その行動で、何を得ている?(注目・特別感・優位性 など)
  2. その行動で、何を避けている?(課題・失敗・比べられること・不安 など)
  3. その行動の直前、子どもの中にどんな感情があった?
  4. その子に、どうなってほしい?(望ましい行動の姿は?)

叱るタイミングでこの問いを入れると、苛立ちだけで関わるのではなく、支援の視点が生まれます。

② 望ましい行動を“育てる”声かけ

PBSでは、望ましい行動を「できたときに強化する」ことを重視します。
特別な褒め言葉は必要ありません。
おすすめは、具体的に・短く・事実に寄り添うこと。

例:

  • ×「えらいね」「いい子になったね」 → 評価が強すぎる
  • ⭑「今、列にスッと戻れたね」
  • ⭑「呼ばれたらすぐこっちを向けたね」
  • ⭑「困ってるって言えたのすごい力だね」

ポイントは、
行動と、それがもたらした良い変化をつないで伝えること

例:
「あなたが手を挙げたことで、意見が広がったよ」
「すぐに動いたから、みんなが安心してたよ」

これにより、子どもは
どう行動すればうまくいくのか”を学習します

③ “叱る代わり”にできる3つの選択肢

PBSは「叱らない教育」ではありません。
ただ、叱る以外の手段も持っておくと楽になります。

3つだけ覚えておくと十分です。

  • 行動の機能を満たした上で、望ましい行動に誘導する
     例:注目がほしくて騒ぐ→「意見をくれたら助かる」と役割を渡す
  • 逃げたいときは“逃げ方”を教える
     例:「トイレに行って気持ち落ち着かせてきてもいいよ」と提案
  • 怒りの衝動は体を動かしてリセット
     例:「プリントを配るの手伝ってくれる?」などの身体活動

叱るより早く、傷つけず、再発も防ぎやすくなります。

④ 新任自身の心を守るPBSの使い方

問題行動は、先生の心にダメージを与えます。
怒り・不安・無力感——どれも自然な感情です。

だからこそ、自分に向ける声も必要です。

  • 「今日は、問題が起きた理由を探そうとしただけで十分」
  • 「行動の見立てが当たらなくてもOK。仮説が育っていく」
  • 「少しできたことを、小さく喜んでいい」

PBSは子どものための支援ですが、
新任の先生の心の摩耗を減らす支援にもなると強く感じています。

4. Point:叱る前に行動の意味を見立てる

問題行動が続くのは、先生の力不足ではありません。
子どもがまだ、自分の気持ちや願いを“行動以外の方法で伝える力”を育てている途中だからです。

だからこそ、叱る前に「意味を見立てる」。
望ましい行動を“できたときに育てる”。
この2つができるだけで、教室の雰囲気は変わります。

明日の教室でできる小さな一歩は、次のうちどれでも構いません。

  • 問題行動の“機能”を考えてみる
  • 具体的な行動の言語化で褒める
  • 「叱る以外の選択肢」をひとつ試す

完璧にやる必要はありません。
少しずつで十分です。
わかる・少し変わる・積み重なるで、支援は形になっていきます。

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