「比べる」から「支え合う」へ──学級を“拠りどころ”に変える準拠集団づくりのヒント

子どもたちが「友だちと比べて落ち込む」「自分なんてダメだ」とつぶやく姿に、胸が痛むことはありませんか。

テストの点数や運動の順位が目に見える中で、「できる子」を基準に自分を測ってしまうのは自然なことです。
けれど、その比較の繰り返しが、子どもたちの自信を少しずつ削っていきます。

心理学には「準拠集団(じゅんきょしゅうだん)」という考え方があります。
これは「自分を評価するときの基準となる集団」のこと。
つまり、どんな仲間と自分を比べるかによって、自己評価は大きく変わるのです。

わたしは長年、学級を“競争の場”ではなく“安心して成長できる集団”に変えていく先生方と関わってきました。
その中で見えてきたのは、学級が「比較の場」から「拠りどころ」に変わる瞬間です。

この記事では、子どもが「友だちと比べる」から「仲間と支え合う」へと変わるために、学級が“準拠集団”として機能するための実践とヒントをお伝えします。

1.Point:比べるより、よりどころをつくる──学級を「準拠集団」に育てよう

子どもたちが安心して自分を見つめ、伸ばしていくためには、学級を「準拠集団(=自分の基準となる仲間の集まり)」として育てることが大切です。

「隣の子よりできるかどうか」ではなく、「仲間とともに成長できているか」を感じられる環境が、子どもたちの自己肯定感を支えます。

学級が準拠集団として機能し始めると、子どもたちは「どうせ無理」ではなく「みんなでやってみよう」と動き出します。

先生一人の努力ではなく、仲間の力を信じ合う文化が、学級をしなやかに強くしていくのです。

2.Reason:なぜ子どもたちは「他人との比較」に苦しむのか

今の子どもたちは、SNSや評価社会の中で、常に“他者との比較”にさらされています。
「いいね」の数、テストの順位、運動会での結果。
気づけば、誰かと比べなければ自分の価値を感じられない環境に生きています。

学校という場もまた、知らず知らずのうちに「比較の文化」を強めてしまうことがあります。
たとえば、

  • 成績や順位で子どもを並べる
  • 行動面で「〇〇さんを見習って」と言う
  • グループを競わせてモチベーションを上げようとする

こうした関わりが悪いわけではありません。
ただし、それが続くと、「他人と比べてどうか」という外的評価が、子どもたちの行動動機になってしまうのです。

心理学では、人が自分を判断するときには必ず“基準”を参照すると言われます。
それが「準拠集団」です。
子どもが「自分を比べる相手」が他人の成績や評価ばかりになると、安心できる居場所を見失います。
一方で、「自分たちのクラスの仲間」を基準にできると、比較が成長に変わるのです。

たとえば、「あの子のようにすごくなりたい」ではなく、「うちのクラスはみんなで頑張るチームだ」と思える状態。
このとき、子どもたちは“競争”ではなく“共感”でつながります。

3.Example:準拠集団をつくるための学級づくりの実践

準拠集団を目指す学級経営は、特別なプログラムではありません。
日々の関わり方の中で、「比べる関係」から「支え合う関係」へを意識するだけで始まります。

目標を「個人」ではなく「集団」で設定する

「クラス全員で○○を目指そう」「みんなで最後まで協力しよう」と、全体目標を立てることで、“仲間と一緒に進む”感覚を育てます。
「できる人がえらい」ではなく、「みんなで達成できた」が誇りになる仕組みを意識しましょう。

「成果」よりも「努力と過程」を言葉にする

成果ばかりを取り上げると、子どもたちは「勝てなかった」と感じます。
「声をかけあっていたね」「前よりも話し合いが深まったね」と、プロセスの成長を共有することで、子どもは仲間の努力を基準に自分を振り返れるようになります。

クラスの“らしさ”をみんなでつくる

学級通信や掲示物に、「うちのクラスのいいところ」「仲間との約束」などを子どもと一緒に書き出してみましょう。
「わたしたちらしさ」が言語化されると、それがクラスの“基準”になります。
この基準を子どもたちが共有できたとき、学級は自然と準拠集団になります。

「称賛」を“横の関係”で生み出す

先生から褒められるよりも、仲間から「ありがとう」「助かった」と言われることの方が、子どもたちの自尊心を強く支えます。
「友だちの頑張りを見つけて言葉にする日」などをつくると、互いの存在を認め合う文化が生まれます。

トラブル時こそ「仲間の基準」で考える

けんかや意見の対立が起きたとき、「誰が悪いか」ではなく、「うちのクラスならどうするか」と問いかけてみましょう。
その瞬間、子どもたちは自分たちの集団の“価値観”を思い出します。
大切なのは、「正解」ではなく、「自分たちの基準」で解決する経験を積むことです。

実践事例:競争型クラスから準拠集団への転換

ある小学校6年生のクラスでは、最初は「できる・できない」で子どもたちが分断されていました。
学級会でも発言するのは一部の子どもだけ。
担任の先生は、「このまま中学に行ったら孤立する子が出る」と悩んでいました。

そこで、先生と一緒に「うちのクラスのいいところを探そう」という活動を始めました。
毎日、1人が「今日のクラスのいいところ」を発表し、全員で拍手する。
たとえば「掃除のときに声をかけあえた」「意見がまとまった」といった些細なことです。

2か月後、子どもたちは「うちのクラスって協力できるよね」と自然に言うようになりました。
卒業前、ある子が言いました。
「中学では他のクラスと比べなくていい。うちらのやり方でがんばる。」
この言葉を聞いて、先生の目に涙が浮かびました。
学級が“競争の場”から“心のよりどころ”に変わった瞬間でした。

4.Point:仲間を基準に生きる力が、未来の自信をつくる

子どもたちが生きるこれからの社会は、多様で変化が激しい時代です。
だからこそ、「他人との比較」ではなく、「仲間とともに成長する力」が必要です。
準拠集団を意識した学級経営は、その力を育てる最も身近な実践です。

学級が「結果で優劣をつける場」から、「努力と変化を認め合う場」になるとき、
子どもたちは自分を信じ、他者を尊重する力を身につけます。
それが、社会に出たときに本当に役立つ「自己肯定感の土台」になります。

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