「生徒と一緒につくる学級目標〜押し付けから共創へ〜」(高等学校編)

- 高校で学級目標なんて必要?と疑問に感じている
- 生徒たちは「進路」「部活」「バイト」で忙しく、クラスへの関心が薄い
- 学級目標を提案しても「高校生にもなって...」という冷ややかな反応
- 授業と進路指導で精一杯で、学級経営まで手が回らない
- 他の先生方も学級目標について話題にしない
高校での学級目標づくりに戸惑うのは、決してあなただけではありません。
わたしも高校の教員として、「高校生に学級目標は子どもっぽすぎるのでは」と悩みました。
しかし、ある年の生徒が卒業間際にこう言ったんです。
「先生、俺,クラスで話したことない人結構いるよ」。
その言葉に衝撃を受けました。
高校生だからこそ、実は「所属感」や「つながり」を求めているのではないか。
進路や将来への不安が大きいからこそ、安心できる居場所が必要なのではないか。
この記事では、高校生だからこそ意味のある学級目標づくりの方法をお伝えします。
「子どもっぽい」と思われがちな学級目標を、高校生の心に響く「人生の指針」として機能させる具体的な手法です。
高校生は、誰よりも真剣に自分の人生と向き合っています。その真剣さに応える学級づくりができれば、きっと彼らの高校生活はより豊かなものになるはずです。
1.Point:高校では「人生の準備期間」としての学級目標が必要
高校での学級目標は、小中学校とは根本的に異なる意味を持ちます。
それは「社会に出る前の最後の準備期間」として、一人ひとりが自分らしい生き方を見つけるための指針となることです。
高校生の多くは、卒業後に就職や大学進学という大きな節目を迎えます。
そんな彼らにとって学級目標は、「クラスの仲良しルール」ではなく、「社会人として必要な力を身につける場」「多様な価値観の中で自分を確立する場」としての意味を持つべきです。
高校生だからこそ、表面的な目標ではなく、人生観や価値観にまで踏み込んだ深い目標設定が可能になります。
2.Reason:なぜ高校でも学級目標が重要なのか
「個人主義」の時代だからこそ必要な「つながり」
現代の高校生は、SNSでつながりながらも、実は深い孤独感を抱えている生徒が多くいます。
わたしがカウンセリングで関わった高校生からは、「本当の自分を分かってくれる人がいない」「将来への不安を一人で抱えている」という声をよく聞きます。
進路選択、人間関係、家族との関係、将来への不安。
こうした重要な課題を一人で抱え込みがちな高校生にとって、学級は「安心して本音を語れる場」「多様な考えに触れられる場」として機能する必要があります。
「正解のない時代」を生きる力の育成
現代社会は、これまでのような「決まった道筋」が見えにくい時代です。
終身雇用の崩壊、AIの発達、価値観の多様化。
高校生たちは、わたしたちが経験したことのない社会に飛び込んでいくのです。
そんな時代を生きるために必要なのは、「自分で考える力」「他者と協働する力」「困難に立ち向かう力」です。
学級目標は、これらの力を日常の中で育むための具体的な枠組みとして機能できます。
高校教師の多忙さと学級経営の両立
高校教師は、授業準備、進路指導、部活動指導、校務分掌など、膨大な業務を抱えています。
「学級経営まで手が回らない」というのが正直な気持ちではないでしょうか。
しかし、学級目標を「負担」ではなく「効率化のツール」として活用することで、むしろ学級経営が楽になる場合があります。
明確な目標があることで、生徒指導の方針が定まり、保護者との面談でも話しやすくなります。
進路指導との連動効果
高校での学級目標は、進路指導と密接に関連づけることができます。
「どんな大人になりたいか」「社会でどんな役割を果たしたいか」といった根本的な問いから生まれた学級目標は、進路選択の指針としても機能します。
3.Example:高校での具体的な実践方法と事例
ステップ1:「社会人へのカウントダウン」を意識させる
高校生との学級目標づくりは、まず「あと○年で社会に出る」という現実を共有することから始めます。
ただし、不安を煽るのではなく、「準備期間として大切に使いたい」という前向きな文脈で話します。
1年生なら「あと3年で大人の仲間入り」、3年生なら「あと1年で社会人」。
この現実を踏まえて、「今、どんな力を身につけておきたい?」と問いかけます。
わたしが関わった先生のクラスでは、生徒たちからこんな声が上がりました。
「自分の意見をちゃんと言える力」 「困った時に助けを求められる力」 「違う考えの人とも話し合える力」 「失敗してもあきらめない力」
これらは、まさに社会人として必要な力そのものです。
ステップ2:「将来の自分からのメッセージ」を考える
「30歳になった自分が、今の高校生の自分にアドバイスするとしたら何と言うか」を考えてもらいます。
この活動は、将来への具体的なイメージを持つ効果があります。
実際に出てきたメッセージの例:
「今しかできないことを大切にして」 「いろんな人と出会って、いろんな考えを聞いて」 「失敗を恐れずに挑戦して」 「自分らしさを見つけて」
こうしたメッセージから、「高校生の今、大切にしたいこと」が見えてきます。
ステップ3:「多様性の中での自分らしさ」を探る
高校生は、小中学生以上に価値観や将来への考えが多様化しています。
この多様性を「バラバラ」ではなく「豊かさ」として捉える目標づくりが重要です。
3年生のあるクラスで行った活動です。「10年後、どんな場所で何をしていると思う?」という問いに対して、生徒たちは様々な答えを出しました。
「東京で会社員として働いている」 「地元で家業を継いでいる」 「海外で日本語教師をしている」 「結婚して子育てをしている」 「まだ大学で勉強を続けている」
この多様な未来像を共有した後、「お互いの夢を応援し合える関係でいたい」という思いが自然に生まれました。
ステップ4:「今だからこその体験」を大切にする目標
高校生活は、人生の中でも特別な時期です。大学受験、文化祭、体育祭、修学旅行。
これらの体験を単なる「イベント」ではなく、「成長の機会」として位置づける目標づくりを心がけます。
1年生のクラスでの実際の話し合いです。
「文化祭では、みんなで一つのものを作り上げる体験を大切にしたい」
「体育祭では、勝ち負けよりも、お互いを支え合うことを大切にしたい」
「進路選択では、お互いの選択を尊重し合いたい」
実際の変化:ある普通科3年生クラスの事例
大学受験を控えた3年生の担任をしていた先生からの報告です。
最初は「全員で国公立大学合格を目指す」という目標を考えていました。
しかし、生徒たちの進路希望は多様で、私立大学志望、専門学校志望、就職希望もいました。
そこで、生徒たちと一緒に目標を考え直しました。
話し合いの中で出てきたのは、「それぞれの夢に向かって、最後まで支え合いたい」「高校生活の締めくくりとして、みんなが誇れるクラスにしたい」という思いでした。
最終的に決まった目標は「一人ひとりの『なりたい大人』を目指して お互いを高め合う 3年A組」。
この目標ができてから、受験に対する取り組みが変わりました。
志望校は違っても、お互いの頑張りを認め合い、励まし合う雰囲気が生まれました。
卒業時のアンケートで、「この目標があったから、最後まで諦めずに頑張れた」「進路は違っても、みんなで成長できた実感がある」という感想が多く寄せられました。
学年・コース別の工夫ポイント
1年生:高校生活への適応と基盤づくり
中学校との違いに戸惑う1年生には、「高校生としての自覚」と「新しい環境での関係づくり」に焦点を当てます。 例:「高校生として自立し、多様な仲間と共に成長する1年A組」
2年生:進路意識の芽生えと主体性の育成
進路選択を控え、「自分らしさの発見」と「将来への準備」を意識した目標を設定します。 例:「自分らしい将来を見つけ、仲間と共に歩む2年B組」
3年生:社会人への最終準備期間
卒業を控え、「最上級生としての責任」と「社会人への準備」を両立させる目標を設定します。 例:「社会人として通用する力を身につけ、最高の思い出を創る3年C組」
進学校・就職校・総合学科での違い
進学校では「学びの質」、就職校では「社会人基礎力」、総合学科では「多様性の尊重」に重点を置いた目標づくりが効果的です。
「学級目標なんて...」への対応
高校生から「子どもっぽい」「意味がない」という反応が出ることは自然です。
そんな時は、「確かに小中学校とは違うよね。だからこそ、高校生らしい目標を一緒に考えてみない?」と返してみてください。
大切なのは、彼らのプライドを尊重しながら、「これは君たちの人生にとって意味のあることだ」というメッセージを伝えることです。
保護者・同僚との連携
高校では、保護者懇談会で学級目標について説明する機会があります。
その際は、「お子さんの将来に向けた準備として」という文脈で話すと理解を得やすくなります。
また、同僚の先生方には、「進路指導の一環として」という位置づけで学級目標について話すと、協力を得やすくなります。
4.Point:高校生の人生に寄り添う目標こそが真の教育
高校での学級目標は、単なる「クラス運営のツール」ではありません。
社会に出る前の貴重な準備期間を、一人ひとりがより充実して過ごすための「人生の指針」です。
高校生は、大人が思っている以上に真剣に自分の将来を考えています。
その真剣さに応える目標づくりができれば、学級は彼らにとって「人生を考える場」「互いを高め合う場」となります。
完璧な目標である必要はありません。生徒たちと一緒に試行錯誤しながら、その学級らしい、その時期らしい目標を見つけていくことが大切です。
そのプロセス自体が、彼らにとって貴重な学びの機会となるのです。
まとめ:学級目標づくりは,キャリア教育
高校での学級目標づくりは、生徒たちの人生の重要な節目に立ち会う、とても意義深い仕事です。
それは社会に出て,どう生きていくかを考えるものであり,まさに「キャリア教育」です。
「必要ない」と思われがちな学級目標も、高校生の心に響く形で提示すれば、必ず彼らの成長につながります。
時間はかかりますが、生徒たちの本音に耳を傾け、一緒に人生について考える姿勢を大切にしてください。
きっと、あなた自身も多くのことを学び、教師としてさらに成長できるはずです。
高校生との出会いを、お互いにとって意味のある時間にしていきましょう。