「生徒と一緒につくる学級目標〜押し付けから共創へ〜」(中学校編)

  • 中学生に学級目標を提示しても「別に...」という反応しか返ってこない
  • 小学校のように素直に話し合ってくれず、シラけた空気になってしまう
  • 「やる気のないクラス」「受験に向けて頑張るクラス」など、ありきたりな目標しか思い浮かばない
  • 思春期の生徒たちの本音が見えず、どんな目標が響くのか分からない

中学生への学級目標づくりは、小学生とは全く違う難しさがあります。
「どうせ先生が決めるんでしょ」という冷めた視線。建前で発言する生徒たち。本音を言わない、でも心の奥では「認められたい」「居場所がほしい」と願っている複雑な年頃。

でも、ある先生は,この言葉を聞いて変わったそうです。
「先生、僕たちのことを本当に知ろうとしてくれる大人っていないんです」。
一人の生徒のこの言葉から、中学生との目標づくりの本質が見えてきたというのです。

この記事では、思春期真っ只中の中学生だからこそできる、深みのある学級目標づくりの方法をお伝えします。
表面的な話し合いではなく、彼らの内面にある本当の願いを引き出し、一年間の成長につながる目標を一緒に見つける具体的な手法です。

中学生は、本当は誰よりも真剣に自分たちのことを考えています。
その気持ちに寄り添うことで、あなたのクラスは必ず変わっていくはずです。

1.Point:中学生には「自分探し」と「将来への橋渡し」を込めた目標づくりを

中学生の学級目標づくりで最も大切なことは、彼らの「自分は何者なのか」「将来どうなりたいのか」という根本的な問いに寄り添うことです。
小学生のような素直な話し合いは期待できませんが、その分、一人ひとりの内面には深い思いが眠っています。

中学生は表面的には「どうでもいい」と言いながらも、実は強い承認欲求と成長への願いを持っています。
学級目標は、そんな彼らが「本当の自分」と向き合い、「なりたい自分」を描くきっかけになるのです。

小学校の目標が「みんなで仲良く」だとすれば、中学校の目標は「一人ひとりが自分らしく成長する」ことに重点を置くべきです。

2.Reason:なぜ中学生には違うアプローチが必要なのか

思春期特有の心理を理解する

中学生は、小学生の時とは全く違う心理状態にあります。
自我の確立、親からの精神的自立、同調圧力への敏感さ。これらが複雑に絡み合う時期です。

わたしがコーチングで関わった中学校の先生方から、こんな声を聞きました。
「小学校では通用した方法が全く効かない」「生徒たちの本音が見えない」「どうアプローチしていいか分からない」。

ある2年生の担任をしていた先生は、こう話してくれました。
「最初は『協力し合えるクラス』という目標を提案したんです。でも生徒たちは『小学生じゃないんだから』と冷ややかな反応で。そこで初めて、中学生には中学生なりのアプローチが必要だと気づきました」。

「建前」の奥にある「本音」を見つける

中学生は、大人に対して建前で話すことが多くなります。
「みんなで頑張りたいです」「勉強を一生懸命やりたいです」。
でも、そんな発言の奥には、もっと複雑で深い思いがあります。

「本当は友だち関係で悩んでいる」「将来への不安を感じている」「自分に自信が持てない」「認められたいけれど、どう表現していいか分からない」。
こうした本音にたどり着くためには、小学生とは違う丁寧なアプローチが必要です。

将来を見据えた目標設定の重要性

中学生は、小学生よりもずっと将来を意識し始める年頃です。
「高校受験」「将来の仕事」「大人になること」への漠然とした不安と期待を抱えています。

学級目標は、そんな彼らにとって「今の自分」と「将来の自分」をつなぐ橋渡しの役割を果たすべきです。
単に一年間の行動指針ではなく、「中学生として、こんな力を身につけたい」「こんな人になりたい」という成長目標として機能することが大切です。

3.Example:中学校での具体的な実践方法と事例

ステップ1:「10年後の自分へのメッセージ」から始める

中学生との学級目標づくりは、まず個人の内面と向き合うことから始めます。
4月の2週目頃、「10年後の自分に向けて、今伝えたいことを書いてみよう」という活動を行います。
「10年後の○○さんへ。今の僕は...」こんな書き出しで、今の気持ちや不安、夢などを自由に書いてもらいます。提出の必要はありません。自分だけのメッセージです。
この活動の後、「今書いたことの中で、クラスのみんなと共有してもいいと思うことはある?」と問いかけます。
すると、「将来への不安」「友だち関係の悩み」「自分に自信がない」といった共通のテーマが見えてきます。

ステップ2:「理想の先輩像」を考える

中学生は、身近な先輩への憧れが強い時期です。
「どんな先輩だったら尊敬できる?」「後輩から見て、こんな先輩になりたいと思う人はどんな人?」と問いかけてみましょう。
わたしがコーチングで関わった先生のクラスでは、こんな意見が出たそうです。
「勉強も部活も頑張っているけれど、後輩にも優しい先輩」 「失敗しても立ち直れる強さがある先輩」 「自分らしさを大切にしている先輩」 「みんなを笑顔にできる先輩」
これらの声は、彼ら自身が「こんな人になりたい」と思っている理想像でもあります。
学級目標は、この理想像に近づくための道筋として位置づけることができます。

ステップ3:「3年間の成長ストーリー」を描く

中学校は3年間という明確な期間があります。
この特徴を活かして、「1年生の今」「2年生になったとき」「3年生として卒業するとき」の成長ストーリーを一緒に考えてみましょう。

2年生のあるクラスでの実際の話し合いです。
「1年生の時はまだ中学校に慣れるので精一杯だった」 「2年生の今は、後輩もできて、自分たちが中心になる時期」 「3年生になったら、後輩の手本になりたい」
こうした成長への願いから、「今年、2年生として大切にしたいこと」が自然と見えてきます。

ステップ4:「一人ひとりの強み」を活かした目標づくり

中学生は、小学生以上に個性や能力の違いが明確になってきます。
この違いを「問題」ではなく「強み」として捉える目標づくりを心がけましょう。

3年生のクラスで実際に行った活動です。一
人ひとりに「自分の良いところ」「友だちの良いところ」を書いてもらい、クラス全体の「強みマップ」を作りました。
「リーダーシップがある人」「聞き上手な人」「創造力豊かな人」「努力家な人」「ムードメーカーな人」。
多様な強みが見えてきたとき、生徒たちから自然に「みんなの良さを活かせるクラスにしたい」という声が上がりました。

実際の変化:ある3年生クラスの事例

受験を控えた3年生の担任をしていた先生からの報告です。
最初は「受験に向けて全員で頑張るクラス」という目標を考えていました。しかし、生徒たちの反応は「当たり前すぎる」「やらされ感がある」というものでした。
そこで、上記の方法で生徒たちと一緒に目標を考え直しました。
話し合いの中で出てきたのは、「一人ひとりの夢を応援し合える仲間でありたい」「高校に行っても誇れる中学生活にしたい」という思いでした。
最終的に決まった目標は「一人ひとりの『なりたい自分』を 仲間と共に追いかける 3年1組」。
この目標ができてから、受験勉強に対する取り組みが変わりました。
お互いの志望校を応援し合ったり、得意分野を教え合ったり。
卒業時の文集で、生徒たちは「この目標があったから、最後まで支え合えた」「一人じゃ頑張れなかったけれど、仲間がいたから乗り越えられた」と書いています。

学年別の工夫ポイント

1年生:中学生への移行期を意識した目標

小学校からの環境変化が大きい1年生では、「中学生としての自覚」と「新しい仲間との関係づくり」に焦点を当てます。 例:「小学生の自分を卒業し、新しい仲間と共に成長する1年生」

2年生:中だるみを防ぐ主体性重視の目標

「中堅学年」として責任感を育てつつ、一人ひとりの個性を尊重する目標を心がけます。 例:「一人ひとりの個性を大切にし、学校の中心として輝く2年生」

3年生:将来への橋渡しとなる目標

受験や進路選択を控え、「最上級生としての責任」と「将来への準備」を両立させる目標を設定します。 例:「最高の先輩として後輩を導き、自分の未来を切り開く3年生」

「反発」や「無関心」への対応

中学生特有の「どうせ...」「別に...」という反応にどう対応するか。
大切なのは、その反発の奥にある本当の気持ちを理解することです。

「どうせ先生が決めるんでしょ」→「君たちが本当に大切にしたいことを聞かせて」
「別に何でもいい」→「何でもいいということは、実は何かあるのかもしれないね」

こうした丁寧な関わりの中で、少しずつ本音を話してくれるようになります。

4.Point:中学生の内面に寄り添い、成長への願いを形にする

中学生の学級目標づくりは、小学生以上に時間と根気が必要です。
しかし、その分、一度心に響く目標ができれば、驚くほど深い影響を与えることができます。

大切なのは、表面的な「良い子の発言」に満足せず、彼らの内面にある本当の願いや不安に寄り添うことです。
「自分らしくありたい」「認められたい」「成長したい」。
こうした根源的な欲求を大切にした目標こそが、一年間を支える力になります。

中学生は、大人が思っている以上に真剣に自分の将来を考えています。
その真剣さに応える目標づくりができれば、先生自身も多くのことを学び、成長できるはずです。
完璧である必要はありません。生徒たちと一緒に試行錯誤しながら、その学級らしい目標を見つけていってください。

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