「原因探しより大切なこと〜不登校支援で見落としがちな子どもの今」

「なぜ学校に来られないのか、原因をはっきりさせましょう」
「きっかけは何だったのでしょうか」
不登校の子どもと向き合うとき、こんな言葉を口にしたことはありませんか。
家庭環境なのか、友人関係なのか、学習の遅れなのか。
原因が分かれば解決策も見つかるはず、そう考えるのは自然なことです。
でも、わたしが数多くのカウンセリングを通して感じるのは、原因探しに必死になるほど、目の前の子どもの「今」を見失ってしまうということです。
原因を特定しようとする大人の熱意が、かえって子どもや保護者を追い詰め、学校への信頼を損なってしまうケースを、わたしはたくさん見てきました。
不登校の子どもが本当に必要としているのは、原因の究明ではありません。
今この瞬間の自分を受け止めてもらい、小さな変化に気づいてもらい、自分のペースで歩んでいけることを支えてもらうことです。
原因は複雑なことが多い,本人もわかっていないことがほとんどです。
原因探しよりも「今ここにいる子ども」に目を向けたとき、支援の景色は大きく変わります。
今日は、原因探しの落とし穴と、子どもの「今」を大切にする支援のあり方について、一緒に考えてみませんか。
きっと、明日からの関わり方に新しいヒントが見つかるはずです。
先生方の温かいまなざしが、子どもたちの心に届きますように。
1.Point:原因探しより「今」を見つめる支援こそが、不登校の子どもの心を癒す
不登校支援において、わたしたちが最も大切にすべきは原因の究明ではなく、今この瞬間の子どもの状態に寄り添うことです。
原因を探ろうとする質問は、子どもにとって自分を責める材料になり、保護者にとっては罪悪感を増大させる要因となります。
一方で、子どもの小さな変化や成長に目を向け、現在の気持ちに共感する関わりは、安心感と自己肯定感を育み、結果として前向きな変化を生み出します。
原因よりも「今ここにいる子ども」を見つめることが、真の支援の出発点なのです。
Reason:なぜ原因探しが子どもと保護者を苦しめるのか
原因探しが生む3つの弊害
不登校の原因を特定しようとする学校の姿勢は、しばしば意図しない形で子どもや保護者を傷つけます。
わたしがカウンセリングで出会った多くの事例から、3つの大きな弊害が見えてきました。
まず第一に、子ども自身が自分を責めるようになります。
「いじめがあったの?」「勉強についていけなかったの?」という質問を繰り返し受けることで、子どもは「自分に問題があるから学校に行けない」と思い込んでしまいます。
ある中学2年生の女子生徒は、カウンセリングの中でこう話しました。
「先生がいつも『なぜ』って聞くから、きっと私がダメだから学校に行けないんだと思って、もっと嫌になった」。子どもにとって、原因探しは自己否定の材料でしかないのです。
第二に、保護者の罪悪感と混乱を深めます。
「家庭に問題があったのでしょうか」「しつけが甘かったのでしょうか」といった質問は、保護者を責める意図がなくても、結果として親の自信を奪います。
わたしがコーチングした保護者の方は「学校から原因を聞かれるたびに、自分の子育てが間違っていたのかと眠れない夜を過ごした」と涙ながらに語りました。
原因探しは、最も子どもを支えるべき保護者の力を削いでしまうのです。
第三に、学校と家庭の信頼関係を損ないます。
原因を特定しようとする学校の姿勢は、時として家庭を「問題の所在地」として位置づけることになります。
家庭環境、親子関係、しつけの方法——これらに焦点を当てすぎることで、保護者は学校に対して防御的になり、本来協力すべき関係が対立的になってしまいます。
なぜわたしたちは原因を知りたがるのか
では、なぜわたしたち教師は原因を知りたがるのでしょうか。
それは、原因が分かれば解決策も見つかるという、ある種の「論理的思考」があるからです。
また、責任感の強い教師ほど「なんとかしてあげたい」という思いから、原因究明に向かいがちです。
しかし、不登校は風邪のように単純な因果関係で説明できるものではありません。
複数の要因が複雑に絡み合い、子ども一人ひとりの気質や環境によって現れ方が全く異なります。
むしろ、原因探しに時間を費やすよりも、目の前の子どもの今の状態に目を向ける方が、はるかに建設的なのです。
3.Example:「今」を大切にする支援の具体的な方法と効果
小さな変化に気づく関わり方
わたしがカウンセリングで関わった小学5年生のA君の事例をご紹介します。
A君は3か月間学校を休んでいました。
担任の先生は当初、いじめの有無、家庭環境、学習の遅れなど、さまざまな角度から原因を探ろうとしていました。
しかし、A君も保護者も「特に思い当たることはない」と答えるばかりでした。
そこで、わたしは担任の先生に提案しました。
「原因探しはいったん置いて、A君の今の状態に目を向けてみませんか」。
具体的には、家庭でのA君の様子、好きなこと、最近の小さな変化に注目することにしました。
すると、保護者から「最近、料理の手伝いをよくしてくれるようになった」「弟の面倒をよく見るようになった」といった情報が得られました。
担任の先生は、それらの変化を電話で伝え、A君の優しさや成長を認める言葉をかけました。
A君にとって、自分の良い面を見てもらえることは大きな安心感となりました。
2週間後、A君は保健室に顔を出すようになりました。
さらに1か月後には、週に2〜3回教室に入るようになりました。
結局、明確な「原因」は最後まで分からなかったのですが、A君は自分のペースで学校に戻ってきたのです。
気持ちに寄り添う言葉がけ
不登校の子どもとの関わりでは、言葉がけが重要な役割を果たします。
原因を探る質問ではなく、今の気持ちに寄り添う言葉をかけることで、子どもは安心感を得られます。
「今日はどんな気分?」「最近、楽しいと思えることはある?」「何か心配なことがあったら、いつでも話してね」——こうした言葉は、子どもに「自分は受け入れられている」というメッセージを伝えます。
中学3年生のBさんのケースでは、担任の先生が毎週1回、「元気にしてる?無理しなくていいからね」という短いメッセージを送り続けました。
Bさんは後に「あの時、先生が私のことを忘れていないって分かって、すごく嬉しかった」と話してくれました。
原因を問わず、存在そのものを大切にする関わりが、Bさんの心を支えたのです。
段階的な関わりの重要性
「今」を大切にする支援では、子どものペースに合わせた段階的な関わりが欠かせません。
無理に学校復帰を急ぐのではなく、子どもが今できることから始めることが重要です。
ある小学4年生のC君は、学校に来ることはできませんでしたが、クラスの植物の世話をしたいと言いました。
担任の先生は、放課後にC君が学校に来て植物の世話をすることを提案しました。
C君は週に1回、誰もいない教室で静かに植物に水をやりました。
この取り組みを3か月続けた後、C君は「みんなが帰った後の教室で、少し勉強してもいい?」と言いました。
さらに2か月後には、朝の会だけ参加するようになりました。
原因を探ることなく、C君のペースと気持ちを尊重した結果、彼は自然に学校との関わりを取り戻していったのです。
Point:子どもの「今」を受け止めることから始まる真の支援
原因探しから「今」重視の支援への転換は、不登校の子どもにとって大きな希望をもたらします。
過去の出来事を掘り下げるのではなく、現在の子どもの気持ちや状態に目を向けることで、子どもは「自分は責められていない」「理解されている」という安心感を得られます。
大切なのは、子どもが今感じていることを否定せず、小さな変化や成長を見逃さずに認めることです。
「学校に行けない自分はダメだ」と思っている子どもに、「今のあなたにも価値がある」というメッセージを伝え続けることが、支援の核心なのです。
明日から、ぜひ不登校の子どもとの関わりで「なぜ?」という質問を「今はどう?」という問いかけに変えてみてください。
原因が分からなくても、子どもの心に寄り添うことはできます。
そして、その寄り添いこそが、子どもが自分らしく歩んでいくための第一歩となるのです。
まとめ
不登校支援で最も大切なのは、原因の究明ではなく、今この瞬間の子どもの心に寄り添うことです。
原因探しは子どもと保護者を苦しめ、真の解決から遠ざけてしまいます。
一方で、子どもの現在の状態に目を向け、小さな変化を大切にする関わりは、安心感と前向きな変化を生み出します。
明日から「なぜ?」を「今はどう?」に変えて、目の前の子どもの心に寄り添ってみませんか。
その一歩が、子どもにとって大きな支えとなるはずです。