「子どもにナメられてる」と感じる先生へ 〜 威厳と親しみやすさの絶妙なバランス術

こんなこと、感じたことはありませんか?

  • 子どもたちが授業中におしゃべりを止めない
  • 注意しても「はーい」と言うだけで、すぐに同じことを繰り返す
  • 他の先生のクラスは静かなのに、自分のクラスだけざわざわしている
  • 「○○先生は優しいから大丈夫」と子どもたちに言われている

もしかしたら、あなたも今、「子どもたちにナメられているのかもしれない」
そんな不安を感じているかもしれません。

わたしも20年間の教師生活で、何度もこの壁にぶつかりました。子どもたちに好かれたい気持ちと、きちんと指導しなければという責任感の間で揺れ動く日々。優しくすれば甘く見られ、厳しくすれば嫌われるのではないかという恐れ。そんな葛藤を抱えながら、多くの失敗を重ねてきました。

今日は、そんなあなたに、威厳と親しみやすさを両立させる具体的な方法をお届けしたいと思います。心理学の視点から見えてくる子どもの心理メカニズムと、わたし自身の現場体験、そして多くの先生方との対話から見えてきた実践的なアプローチを紹介します。

この記事を読むことで、子どもたちとの関係に新しい視点が生まれ、明日からの教室での立ち振る舞いが変わるはずです。
威厳を保ちながらも子どもたちから愛される、そんな先生への道筋が見えてくるでしょう。
先生方の毎日は、本当に尊いものだとわたしは思います。一緒に考えてみましょう。

1.Point:子どもとの関係で大切なのは「一貫した愛情ある厳しさ」

子どもにナメられていると感じる先生に、わたしがお伝えしたい結論はこれです。威厳と親しみやすさのバランスとは、実は「一貫した愛情ある厳しさ」を持つことなのです。

多くの先生が陥りがちなのは、優しさと厳しさを使い分けようとして、結果的にブレてしまうことです。「今日は優しく、明日は厳しく」という日替わりの対応ではなく、常に子どもの成長を願う気持ちから生まれる一貫した姿勢こそが、子どもたちの心に響きます。

子どもたちは敏感です。先生が本当に自分たちのことを思っているのか、それとも単に自分の都合や感情で叱っているのかを瞬時に見抜きます。だからこそ、表面的なテクニックよりも、根底にある「この子たちを成長させたい」という真摯な想いが何より大切になるのです。

威厳とは、決して高圧的になることではありません。子どもの成長を信じ、そのために必要なことは毅然として伝える。一方で、子どもの気持ちに寄り添い、失敗を受け入れる温かさも持つ。この両方を併せ持つとき、先生は子どもたちから真の信頼を得ることができるのです。

2.Reason:なぜ多くの先生が「ナメられる」と感じてしまうのか

現代の教師が直面する複雑な状況

なぜ今、多くの先生方が「子どもにナメられている」と感じるのでしょうか。
この背景には、現代の教育現場が抱える複雑な状況があります。

昔の教師像は比較的シンプルでした。「先生は厳しくて当然」という社会的合意があり、子どもたちも保護者も、ある程度の厳しさを受け入れていました。

しかし現在は、個性尊重、子どもの人権意識の高まり、保護者の価値観の多様化など、教師を取り巻く環境が大きく変化しています。

「好かれたい」気持ちが生む矛盾

わたしが多くの先生方とお話しする中で気づくのは、多くの方が「子どもに好かれたい」という気持ちを強く持っていることです。これは決して悪いことではありません。子どもたちとの良好な関係を築きたいという想いは、教師として自然で大切な感情です。

しかし、この「好かれたい」という気持ちが強すぎると、時として指導すべき場面で躊躇してしまいます。
「厳しく注意したら嫌われるかもしれない」「他の先生と比べられるかもしれない」
そんな不安が頭をよぎり、結果的に一貫性のない対応になってしまうのです。

子どもの心理メカニズム:「試し行動」の本質

ここで理解しておきたいのは、子どもたちの行動の裏にある心理です。

子どもが先生の言うことを聞かないとき、それは必ずしも「ナメているから」ではありません。むしろ、「この先生はどこまで自分を受け入れてくれるのか」「本当に自分のことを大切に思ってくれているのか」を確かめようとしているのです。

心理学では、これを「試し行動※」と呼びます。(※ボウルビィの愛着理論をベースに現場で発展してきた概念。)

子どもは安心できる関係を求めて、無意識に大人の反応を試します。厳しく叱られても変わらず愛してもらえるのか、失敗しても見捨てられないのか。そんな不安を抱えながら、様々な行動で大人の愛情の深さを測ろうとするのです。

一貫性の欠如が生む悪循環

多くの先生が陥る落とし穴は、子どもの試し行動に対して一貫した対応ができないことです。

ある日は見過ごし、ある日は強く叱る。機嫌が良いときは笑って済ませ、疲れているときは厳しく注意する。このような対応の揺れが、子どもたちの混乱を招きます。

子どもたちは、先生の気分や状況を見ながら行動を選択するようになります。

「今日の先生は機嫌が良さそうだから、ちょっとくらい騒いでも大丈夫かな」

「疲れているみたいだから、今日は静かにしていよう」

このような状況は、決して健全な師弟関係とは言えません。

真の問題:信頼関係の土台が不安定

「ナメられている」と感じる真の原因は、実は信頼関係の土台が不安定だからです。

子どもたちが先生を試すのは、まだ安心できる関係が築けていないからなのです。
信頼関係の土台となるのは、先生の一貫した姿勢です。

どんなときでも子どもの成長を願い、そのために必要なことは毅然として伝える。
同時に、子どもの気持ちに寄り添い、失敗を受け入れる温かさを持つ。

この両面を併せ持つとき、子どもたちは「この先生は本当に自分のことを思ってくれている」と実感し、自然と敬意を払うようになるのです。

3.Example:愛情ある厳しさを実践する具体的な方法

場面1:授業中のおしゃべりにどう対応するか

「静かにしなさい」と何度言っても、授業中のおしゃべりが止まらない。
こんな経験はありませんか?

従来のアプローチでは「声を大きくして叱る」「名前を呼んで注意する」といった方法が一般的でした。
しかし、愛情ある厳しさとは、もう少し深いところからのアプローチです。

ある先生が実践していた方法を紹介します。
まず、授業を一時停止します。そして、静かに子どもたちを見渡しながら、こう言います。
「みなさんに大切なことを伝えたいのですが、今、お話ししている人がいるので、全員が聞ける状態になるまで待ちますね」

ここで大切なのは、怒りや苛立ちではなく、「みんなで学ぶために必要なこと」として伝えることです。そして実際に待ちます。完全に静かになったら、「ありがとうございます。では続けましょう」と笑顔で授業を再開します。

この方法の効果は、子どもたちが「先生は感情的になっているのではなく、みんなのことを考えて言っている」と理解できることです。愛情の裏付けがある厳しさだからこそ、子どもたちの心に響くのです。

場面2:宿題を忘れた子どもへの対応

宿題を忘れた子どもに対して、どう対応していますか?
「なぜ忘れたの?」「ちゃんとしなさい」と叱るだけでは、根本的な解決にはなりません。
愛情ある厳しさの実践例をお話しします。

ある子が宿題を忘れたとき、ある先生はこう対応していました。
「○○さん、宿題のことで話があります。放課後、少し時間をもらえますか?」
まず、他の子どもたちの前で恥をかかせることなく、個別に話す機会を作ります。

放課後の面談では、まず子どもの気持ちを聞きます。
「宿題のこと、どう思ってる?」「何か困ったことがあった?」

子どもが理由を話したら、まずはその気持ちを受け止めます。
「そうだったのね。大変だったんだね」


その上で、宿題の意味を一緒に考えます。
「宿題って、何のためにあると思う?」「○○さんが勉強できるようになるために、先生が出しているんだよ」「だから、忘れると○○さんが困ることになるの。それが心配なの」

最後に、一緒に解決策を考えます。
「どうしたら忘れずにできそう?」「何か手伝えることがある?」

このような対応をすることで、子どもは「先生は自分のことを本当に心配してくれている」と実感し、自発的に改善しようとするようになります。

場面3:クラス全体のルール作りと維持

愛情ある厳しさは、日常のルール作りと維持にも表れます。

新学期のクラス開きで、ある先生はいつもこんな話をしていました。
「みなさんと一緒に、楽しいクラスを作りたいと思っています。そのために、みんなが安心して過ごせるルールを一緒に決めましょう」

ここで大切なのは、「先生が決めたルール」ではなく、「みんなで決めたルール」にすることです。
子どもたちと話し合いながら、「なぜそのルールが必要なのか」を共有します。

例えば、「友達を傷つける言葉は使わない」というルールを決めるとき、「どうしてこのルールが必要だと思う?」と問いかけます。
子どもたちから「嫌な気持ちになるから」「仲良くできなくなるから」といった答えが出てきたら、「そうですね。みんなが安心して過ごせるために、大切なルールだね」と確認します。

そして、ルールを破った子がいたとき、感情的に叱るのではなく、「みんなで決めたルールを思い出してみて」「どうしてこのルールを作ったんだっけ?」と問いかけます。
子ども自身が気づき、考える機会を作るのです。

場面4:褒め方に込める愛情ある厳しさ

褒めることも、愛情ある厳しさの重要な要素です。
表面的な「すごいね」「頑張ったね」ではなく、子どもの成長につながる褒め方を心がけます。

例えば、テストの点数が上がった子に対して、「点数が上がって良かったね」だけで終わらせません。「どんな勉強をしたの?」「前回と何が違った?」と具体的に聞き、努力のプロセスを一緒に振り返ります。

そして、「○○の部分を工夫したから、結果につながったんだね。その頑張りが素晴らしいよ」と、努力や工夫を具体的に評価します。
このような褒め方は、子どもに「結果だけでなく、プロセスが大切」ということを伝え、次への意欲を高めます。

場面5:失敗した子どもへの愛情ある厳しさ

子どもが失敗したとき、どう対応するかで、先生への信頼が大きく左右されます。

わたしが印象深く覚えているのは、学級委員をしていた子が、みんなの前で大きな失敗をしてしまったときのことです。その子は深く落ち込み、「もう学級委員を辞めたい」と言ってきました。

そのとき、こう話しました。「失敗して悔しいよね。その気持ち、よくわかります。でも、○○さんが学級委員を辞めたら、クラスのみんながとても困ると思うよ」「失敗は誰にでもあること。大切なのは、失敗から何を学ぶかです。○○さんなら、この経験をきっと次に活かせると、先生は信じています」

このように、子どもの気持ちに寄り添いながらも、成長への期待を込めて励ます。

日常で心がけている具体的な行動指針

最後に、日常的に心がけている具体的な行動指針を紹介します。

朝の挨拶での一貫性:どんなに忙しくても、疲れていても、子どもたち一人ひとりと目を合わせて挨拶します。この積み重ねが信頼関係の土台となります。

約束は必ず守る:子どもたちとの小さな約束も大切にします。「後で話を聞くね」「明日、○○を持ってくるね」といった約束を忘れずに実行することで、先生への信頼が深まります。

感情的にならない工夫:叱るべき場面で感情的にならないよう、心の中で「この子の成長のために」と唱えてから話します。このひと呼吸が、愛情ある厳しさを実現する鍵となります。

これらの実践を通して、子どもたちは先生の一貫した愛情を感じ取り、自然と敬意を払うようになります。威厳と親しみやすさは、決して相反するものではなく、愛情という共通の土台の上で両立できるのです。

4.Point:明日からできる「愛情ある厳しさ」の実践

これまでお話ししてきたことを改めて整理すると、子どもにナメられていると感じる問題の本質は、一貫した愛情ある厳しさが伝わっていないことにあります。

威厳と親しみやすさは対立するものではなく、子どもの成長を願う真摯な気持ちから生まれる、同じコインの表裏なのです。

子どもたちは、先生の言葉の奥にある想いを敏感に感じ取ります。表面的なテクニックや、その場しのぎの厳しさでは、真の信頼関係は築けません。

大切なのは、どんな場面でも「この子たちを成長させたい」という根っこの部分がブレないことです。

明日から始められる3つの行動提案

まず、朝の挨拶を意識的に変えてみてください

子どもたち一人ひとりの顔を見て、「おはよう、○○さん」と名前を呼んで挨拶する。この小さな積み重ねが、「先生は私のことを大切に思ってくれている」という安心感を育みます。

次に、叱る前にひと呼吸置く習慣をつけてください

感情的になりそうになったら、心の中で「この子の成長のために」と唱えてから話す。この短い間が、愛情ある厳しさと感情的な叱責を分ける境界線となります。

そして、子どもの良い行動を具体的に認める言葉かけを増やしてください

「頑張ったね」ではなく、「○○を工夫したから、結果につながったね」と具体的に伝える。このような言葉かけが、子どもの自己肯定感を高め、先生への信頼を深めていきます。

変化は少しずつ、でも確実に現れます

これらの実践を始めても、すぐに劇的な変化が現れるわけではありません。子どもたちも、先生の変化を確かめるように、しばらくは試し行動を続けるかもしれません。

でも、諦めずに続けてください。一貫した愛情ある厳しさは、必ず子どもたちの心に届きます。

わたし自身、多くの失敗を重ねながらも、この方法で多くの子どもたちとの関係を築き直してきました。

最初は半信半疑だった子どもたちが、次第に心を開き、「先生、ありがとう」と言ってくれるようになったとき、教師としての深い喜びを感じました。

あなたも、きっとそんな日が来るはずです。

子どもたちとの真の信頼関係を築く道のりは、決して平坦ではありませんが、その先に待っている豊かな関係は、教師としての大きな財産となるでしょう。

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